研究課題/領域番号 |
16K10171
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
国本 佳代 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (10438278)
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研究分担者 |
金澤 伸雄 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (90343227)
稲葉 豊 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00647571)
邊見 弘明 和歌山県立医科大学, 先端医学研究所, 准教授 (20451924)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中條ー西村症候群 / PSMB9 / ノックインマウス / プロテアソーム |
研究実績の概要 |
PSMB9遺伝子に新生新規ヘテロ変異を認めた症例とその母親の末梢血から単核球、CD14陽性単球、さらに死細胞を除いた細胞について、各プロテアソーム酵素活性を測定したが、明らかな酵素活性の低下は見られなかった。そこで、PSMB9異常患者と母親、さらに中條- 西村症候群(NNS)患者と健常者の末梢血から作成した不死化B細胞について、長崎大学原爆後障害医療研究所の協力を得てグリセロール濃度勾配を用いた蛋白質分画を用意し、各プロテアソーム酵素活性を測定したところ、ある程度の酵素活性低下を認めるものの、NNS患者に比べるとその程度は軽度であった。一方、分画した蛋白質を用いたウェスタンブロットでは、NNSと同様の複合体形成不全を示唆する結果とともに、β1iとβ5iサブユニットともに未成熟なバンドをメインで認めた。すなわち、ウェスタンブロットではプロテアソーム複合体形成不全と活性低下が示唆されるにもかかわらず、実際の活性低下は軽度で、結果に乖離を認めた。PSMB9変異症患者の炎症性皮疹の免疫組織学的検討においても、浸潤細胞を中心にユビキチンの蓄積を認めるもののその程度はNNS患者に比べると軽度であった。浸潤細胞の多くはCD68陽性で一部MPO陽性、リンパ球は一部CD4陽性で、CD8は陰性であり、CD4陰性、CD8陽性のNNSと差異を認めた。免疫プロテアソーム活性低下によるMHC classⅠの発現異常の関与が考えられ、現在検討中である。また、患者由来不死化B細胞を用いて、IFNγ刺激後の蛋白質ユビキチン化、JAK1リン酸化、STAT1リン酸化の経時的変化をウェスタンブロッティングにて検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「PSMB8ホモ変異を持つNNS症例とPSMB9へテロ変異を持つ本症例の共通点と相違点について、各症例由来細胞や組織などを用いて解析し、新規に同定されたPSMB9変異の病的意義を解明する」との本研究の目的に沿って、概ね当初の計画に沿った実験を遂行することができた。その結果、ウェスタンブロットではプロテアソーム複合体形成不全と活性低下が示唆されるにもかかわらず、実際の活性低下やユビキチンの蓄積は軽度であり、結果に乖離を認めた。すなわち、PSMB9変異症例では、プロテアソーム活性低下によるユビキチン蓄積が細胞ストレスとなってMAPキナーゼ系を中心とする炎症を惹起するという、NNSで想定されている炎症メカニズムとは異なるメカニズムが働いていることが示唆される。ただ、IFNに対する反応異常を含め、NNS/プロテアソーム関連自己炎症症候群(PRAAS)の発症メカニズムにもまだ不明な点が多いことから、PSMB9変異症例が、NNSとは全く異なるメカニズムによって異なる臨床症状を呈する新しい疾患として捉えるべきか、あるいはPRAASのバリエーションの範疇に入るのか、現時点ではまだ明らかでない。ノックインマウスも用いた今後の更なる検討によって、PSMB9変異症例の位置づけだけでなく、NNS/PRAASの発症メカニズムの全貌が明らかになることが期待される。そのため、NNS関連Psmb8変異ノックインマウスを長崎大学から導入し、作成したPsmb9変異ノックインマウスとともに繁殖を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
患者由来検体について、現在進行中の実験を継続するとともに、患者血清中の炎症性サイトカイン・ケモカイン濃度を網羅的に測定し、NNS患者や健常者血清と比較する。NNSでは特にIP-10とIL-6の上昇が認められるため、それらのサイトカインについて、治療の影響を含めた経時的変化とともに検討する。さらに、患者末梢血単核球を用いたmRNA発現アレイ解析を行い、患者由来不死化B細胞のウェスタンブロットの結果と合わせて、活性化している炎症シグナルを明らかにする。現在進行中であるが、各疾患患者由来不死化B細胞をIFNγで刺激した後の蛋白質ユビキチン化、JAK1リン酸化、STAT1リン酸化の経時的変化をウェスタンブロッティングにて検討し、IFN 反応異常の有無を明らかにする。 CRISPR/Cas9システムを用いてマウス受精卵に遺伝子改変を行い、すでにPsmb9変異ノックインマウスが樹立できている。交配を進め、ヘテロとホモで変異を持つマウスを多数用意し、成長に伴って肉眼的、組織学的に異常を示さないか慎重に観察を行う。ヘテロあるいはホモで変異を持つマウスを用い、細胞あるいは分画蛋白質レベルでプロテアソームの機能、発現解析を行い、患者と同じ異常が再現できているか確認する。NNS関連Psmb8変異ノックインマウスについても同時に検討し比較する。病態再現が確認でき、十分な個体数が確保できれば、イミキモドやTPA、DNCBの塗布、UV照射などで皮膚炎を惹起し、肉眼的あるいは組織学的に評価、比較し、遺伝子変異の効果を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究計画はほぼ遂行したがウェスタンブロットが現在進行中であり、この分の予算が余ったものと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し分はすべて消耗品にあて、使用予定の大枠に変更はない。
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