ヒト脂肪組織由来幹細胞を、上皮基底膜構成成分であるIV型コラーゲンの存在下で、細胞同士が接触しない様にヒト皮膚線維芽細胞と共培養し、オールトランスレチノイン酸と骨形成因子4で刺激した後に表皮角化細胞用培地で単独培養した。その結果、様々な表皮角化細胞マーカーの発現が上昇し、蛍光免疫染色を用いてケラチン10の発現率によって評価すると、約45%の脂肪組織由来幹細胞が表皮角化細胞様細胞に分化誘導されたことが確認された。同様に、これらの細胞のうち約80%が、未分化な脂肪組織由来幹細胞では殆ど発現していないVII型コラーゲンを発現していることが確認された。 本細胞を、遺伝子異常によってVII型コラーゲンが減少または欠損して表皮・真皮結合部の係留線維に異常を来たすことで全身の皮膚が容易にむけて、しばしば潰瘍化する疾患である栄養障害型表皮水疱症の患者に生じた皮膚潰瘍治療に応用するために、本細胞を用いた皮膚潰瘍治療実験を行った。 免疫抑制マウス背部に径20mm大の皮膚欠損創を作成し、その周囲に未分化な脂肪組織由来幹細胞、または表皮角化細胞様細胞に分化誘導した脂肪組織由来幹細胞を局所注射して、投与後の創面積を継時的に測定し、細胞を投与しない群と比較した。その結果、細胞非投与群と比べて未分化脂肪組織由来幹細胞投与群は皮膚欠損創の縮小が速く、表皮角化細胞へ分化誘導後の細胞投与群では、さらに速く縮小した。細胞投与後7日目の残存皮膚潰瘍面積を比較したところ、いずれの群間にも有意差を認めた。 以上より、脂肪組織由来幹細胞は創傷治癒を促進すること。IV型コラーゲン上で線維芽細胞と共培養してオールトランスレチノイン酸と骨形成因子4で刺激することで表皮角化細胞様細胞に分化誘導した脂肪組織由来幹細胞はVII型コラーゲンを発現し、さらなる創傷治癒促進作用を有することが確認された。
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