研究課題/領域番号 |
16K10183
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
泉 剛 北海道大学, 医学研究科, 准教授 (60312360)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ストレス / うつ病 / HPA axis / グルココルチコイド / FKBP5 / 海馬 / 扁桃体 / 室傍核 |
研究実績の概要 |
幼若期ストレスモデルのHPA機能について検討した。3週齢で電撃ストレスを負荷することにより、成熟後に血中コルチコステロンの基礎値が低下する一方で、ストレスに対するHPAの反応が亢進するという複雑な変化をきたすことが明らかとなった。室傍核のCRHはむしろ増加していることから、コルチコステロン基礎値の低下は、CRHおよびACHTの低下によるものではなく、副腎そのものにダメージをきたしていることが疑われた。さらに、幼若期ストレスによって、成熟後に海馬でグルココルチコイド受容体が減少していたが、海馬は室傍核を抑制性に調節していることから、ストレスに対するHPAの反応亢進は、海馬のグルココルチコイド受容体を介した室傍核への抑制が弱まったためと考えられた。つまり、幼若期のストレス負荷により、脳(海馬)と副腎の両方にダメージを受けて、コルチコステロン基礎値の低下およびストレスに対するHPAの反応亢進という変化をきたしたと考えられた。他方、成熟後に拘束ストレスを負荷した場合には、コルチコステロンの基礎値が上昇していた。また、室傍核のCRHは有意ではないが減少傾向にあった。さらに、拘束ストレスによって、扁桃体においてグルココルチコイド受容体の阻害因子であるFKBP5が増加していたが、扁桃体は室傍核を促進性に調節していることから、室傍核のCRH減少は、扁桃体のグルココルチコイド受容体を介した室傍核への促進が弱まったためと考えられた。これより、副腎そのものの機能が高まったことによりコルチコステロンの基礎値が上昇し、それによって扁桃体でFKB5が代償的に増加して扁桃体から室傍核への促進性の入力が弱まり、結果として室傍核のCRHが減少したものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、ストレスによるHPA axis関連分子のエピジェネティックな変化を追及する予定であった。しかし、幼若期ストレスおよび成熟後の拘束ストレスによって、それぞれ海馬のグルココルチコイド受容体の減少、および扁桃体でのFKBP5増加という変化が、タンパクレベルで認められたものの、いずれの分子もmRNAは変化しておらず、エピジェネティックな機序は関与していないものと思われた。だが、幼若期のストレスで副腎の機能低下が認められる一方で、成熟後のストレスでは副腎の機能亢進が認められるという所見が得られ、しかも行動の表現型としては、双方ともうつ様行動の増加をきたすという、非常に興味深い結果が得られた。今後は研究の方向を変え、2つのストレスモデルが、異なったHPA axisの変化をきたしている理由についてさらに検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討で、幼若期ストレスおよび成熟後の拘束ストレスによるHPA axis関連分子のmRNAの変化は認められなかった。そのため、HPA axis関連分子についてのエピジェネティックな検討は中止する。しかし、幼若期のストレスでは副腎の機能低下が認められる一方で、成熟後のストレスでは副腎の機能亢進が認められるという所見が得られ、しかも行動の表現型としては、双方ともうつ様行動の増加をきたすという、非常に興味深い結果が得られた。臨床的には、PTSDではHPA axisの機能低下が認められ、うつ病ではHPA axisの機能亢進が認められるとされている。今後、幼若期ストレスと成熟後の拘束ストレスが、異なったHPA axisの変化をきたしている理由についてさらに検討することにより、PTSDとうつ病の病態の違いを解明することにつなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月末日までに納品予定の試薬「Tocris5171 NBOH-2C-CN Hydrochloride 10mg」の 納品が遅れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に、前年度末に納品予定であった試薬「Tocris5171 NBOH-2C-CN Hydrochloride 10mg」の購入に使用する。
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