研究実績の概要 |
統合失調症は、有病率が0.5%から1%、10歳代後半から20歳代に好発する精神疾患で、幻覚や妄想といった陽性症状と、感情の平板化や意欲の低下といった陰性症状を呈する。最近、α7ニコチン性アセチルコリン受容体 (以下、α7nAChR) 作動薬が、統合失調症の陰性症状を改善させたという報告があるが、そのメカニズムは不明である。以上から、α7nAChRは統合失調症の病態生理に重要な役割を有する可能性が考えられるが、統合失調症者の生体内で調べられた報告はない。本研究は、PETを用いて、統合失調症者の脳内α7nAChRを計測し、健常者と比較し、統合失調症の重症度と脳内α7nAChRとの関連性を検討することが目的である。 平成30年度までにデータ解析が可能であった統合失調症者6名と、年齢と男女比を適合させた健常者6名について、統合失調症に関する先行文献を参考に上前頭回、中前頭回、海馬、視床の4ヶ所を関心領域として、α7nAChRを標識するトレーサー[11C](R)-MeQAA結合能を比較した。統合失調症の重症度はPANSSを用いて評価した。統合失調症者のMeQAA結合能は、健常者と比べて、上前頭回、中前頭回、海馬、視床のいずれも有意差は認められなかった。しかし、中前頭回において、PANSSの陽性尺度(r=-0.943, p=0.005)、陰性尺度(r=-0.941, p=0.005)、総合精神病理尺度(r=-0.986, p<0.001)および合計点(r=-1.000, p<0.001)とMeQAA結合能との間に有意な負の相関を認めた。上前頭回や視床でも同様の傾向が認められた。しかし、海馬では相関は認められなかった。以上の結果から、α7nAChRは統合失調症の病態生理に関与している可能性が示されたため、今後さらに数を増やして解析終了後に結果を欧米の専門雑誌に投稿予定である。
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