研究課題/領域番号 |
16K10197
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
上松 謙 久留米大学, 高次脳疾患研究所, 講師 (60441672)
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研究分担者 |
西 昭徳 久留米大学, 医学部, 教授 (50228144)
首藤 隆秀 久留米大学, 医学部, 講師 (70412541)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コカイン / フィンゴリモド塩酸塩(FTY720) / スフィンゴシン-1-リン酸 / スフィンゴシン-1-リン酸受容体 / ドーパミンD1シグナル / 薬物乱用・薬物依存 |
研究実績の概要 |
薬物依存の治療法の確立を目指して、本研究を遂行している。本研究代表者は、精神科医療に従事する臨床医でもあるが、薬物乱用者、薬物依存者への治療は、確立されたものはなく、特効薬的治療薬も存在しない。本申請研究では、生理活性を持つ脂質、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)に着目して中枢神経作用を基礎実験にて解析を行っている。本研究申請者らは、S1Pアナログ分子でS1P受容体作動薬、フィンゴリモド塩酸塩【FTY720】がドーパミン作動性神経細胞内のドーパミンD1シグナル情報伝達を抑制する作用をマウス線条体スライスを用いた実験系データで統計学的有意差が得られた。このFTY720の薬理作用は、ドーパミン賦活作用による依存性違法薬物(アンフェタミン、コカイン等)に拮抗する作用を持つと考え、マウス行動実験で、FTY720を前投与したマウス群は、その30分後のコカイン投与による自発運動亢進が、生理食塩水を前投した与マウス群に対し有意に自発運動が抑制されていた結果が得られている。中枢での作用を確定するため、ドーパミンD1creマウスに、DIO配列を持つAAVでS1P1受容体をドーパミンD1を発現する神経細胞で強制発現させ、FTY720前投与によるドーパミン賦活剤の作用を検証、また、S1P1-loxPマウスをD1creマウスと交配させることで、D1でS1P1受容体がノックダウンされたマウスでも同様の実験を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現象として、フィンゴリモド塩酸塩【FTY720】がコカインで惹起される自発運動亢進を抑制する行動実験データが得られ、そのメカニズムも脳スライス線条体でドーパミンD1シグナル抑制である実験データは得られている。S1P受容体を強発現するウイルスベクターの構築は完成して、AAVへのパッケージも完成した。D1creマウスへのAAV脳内注入実験ではウイルスベクターをマウス線条体に麻酔下に注入してin vivoで行動解析実験を行った。結果、予測される有意なデータが得られている。実験データは、国際学会で発表、有意義な討論がなされた。実験は順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
目的遺伝子であるS1P1受容体遺伝子配列の前後にloxp配列が入ったトランスジェニックマウスを入手した。D1creマウスと交配させることで、中枢神経ドーパミンD1発現細胞でS1P1受容体をノックダウンすることができる。このマウスを用いることで、フィンゴリモド塩酸塩【FTY720】がコカインで惹起される自発運動亢進を抑制する行動が、中枢でのドーパミンD1細胞に発現するS1P1受容体を介している強力な裏付けデータとなりうる。しかし、マウスの交配に時間がかかっており、また、当大学動物実験センターが新築移転した関係で、引っ越しに伴うマウスクリーニング作業も入り、実験がやや滞っている状況にある。フィンゴリモド塩酸塩【FTY720】は、再発性多発性硬化症治療薬として既に販売されている。現段階では、動物実験レベルであるが、実際に、ドーパミン賦活作用を持つ依存性薬物(覚醒剤、コカイン等)に対する依存症治療薬になり得る場合は、既にヒトへの投薬がなされている薬剤であるため臨床導入の可能性も十分に考えられる。また、S1P受容体を標的とした薬剤は、現在のところ、このフィンゴリモド塩酸塩【FTY720】のみであるが、今後、同標的とした新たな化合物の登場も期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 購入予定の試薬等が、予定していた額より安価であったため、少額の金額が残り、次年度へ繰り越しとなった。 (使用計画) 必要消耗品にて使用する予定である。
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