研究課題
申請者は、転写因子MATH2が制御する下流遺伝子としてPlasticity related gene 1 (Prg1)を同定し、MATH2及びPrg1がうつ病の治癒機転に特異的に関与することを報告した。また、Prg1によって不活性化されるリゾホスファチジン酸(LPA)をマウス脳室内に投与した結果、うつ/不安様行動が惹起されることを明らかとした。このことから、うつ病の治癒メカニズムに「MATH2→Prg1→LPAシグナル伝達系の調節が関与する」との仮説に至った。そこで本研究では、LPAシグナル伝達系が新規抗うつ薬の創薬ターゲットとなりうるかを検討することを目的とした。昨年度までに、構成概念妥当性に優れたストレスモデルである社会的敗北ストレス負荷モデルを確立した。そこで本年度はこのモデルを用いて、LPAシグナル伝達系の主要リン酸化酵素Rho kinaseの調節が新規ストレス関連疾患治療薬の創薬ターゲットとなるか検討した。10日間の社会的敗北ストレスを負荷したマウスは、無動時間を有意に延長したことから、ストレスモデルが成立していることを確認した。ストレス負荷期間の10日間、毎日Rho kinaseを阻害するfasudilを投与した群では、無動時間が有意に減少した。一方、ストレス10日負荷後にfasudilを投与した群では、無動時間に差はなかった。これらのことからfasudilは、社会的敗北ストレスによるマウスの行動変化を予防することが明らかとなった。fasudilは、くも膜下出血術後の脳血管攣縮及びこれに伴う脳虚血症状を改善する治療薬として既に製造販売承認されている薬である。ヒトでの安全性や体内動態が確認された既存薬から新たな薬効を探るドラッグリポジショニング方略により、新規ストレス関連疾患治療薬として早期に臨床応用されることが期待される。
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