研究課題/領域番号 |
16K10205
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
樋口 悠子 富山大学, 附属病院, 講師 (60401840)
|
研究分担者 |
瀬尾 友徳 富山大学, 附属病院, 助教 (00377300) [辞退]
鈴木 道雄 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 教授 (40236013)
住吉 太幹 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, トランスレーショナル・メディカルセンター, 部長 (80286062)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 精神薬理学 / 精神生理学 / 精神病発症予防 / 認知神経科学 |
研究実績の概要 |
富山大学附属病院外来を受診した、Comprehensive Assessment of at risk mental state(CAARMS)による診断基準(Yung et al., 2005)を満たした精神病発症リスク状態(at-risk mental state; ARMS)の患者、あるいは、国際疾病分類(ICD-10)の診断基準をみたした統合失調症患者を、omega-3不飽和脂肪酸(polyunsatulated fatty acids; PUFAs) 投与群、非投与群に分け、縦断的な検査を実施した。 PUFAs 投与群の患者には、Eicosapentaenoic acid(EPA)+Docosahexaenoic acid(DHA)製剤(ロトリガ粒状カプセル)を処方薬として投与した。内服前(ベースライン)、および内服後6 ヶ月、1 年で検査セットを行った。 検査セットの項目として、以下を行った。(1) 脳波測定:安静時脳波、事象関連電位(Event related potentials; ERPs)としてP300およびミスマッチ陰性電位(Mismatch negativity; MMN)、(2)赤血球膜PUFAs濃度測定、(3)認知機能検査:統合失調症認知機能簡易評価尺度(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia;BACS)、統合失調症認知評価尺度(Schizophrenia Cognition Rating Scale; SCoRS),GAF
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで14名が介入群としてエントリーした。うち、統合失調症患者は9名、ARMS患者は5名であった。介入群において、PUFAs内服コンプライアンスは良好であり、PUFAs投与による副作用を認めた者はいなかった。また、ARMS患者で精神病を発症した者はいなかった。 今回は、12ヶ月間の介入期間を終えた9例について解析を行った。 PUFAs介入群は、PANSSで測定される陰性症状および総合病理評価尺度の得点の改善が認められた。内訳として特に情動の引きこもり、社会的引きこもりの有意な改善が見られた。 介入群では、赤血球膜におけるomega-3不飽和脂肪酸濃度(EPAおよびDHA)の上昇が認められた(EPA;1.51→3.52%、DHA;8.77→9.63%)。双方とも、ベースラインから6ヶ月までの間に上昇が認められ、6ヶ月から12ヶ月ではその値が保たれた。逆にω6不飽和脂肪酸濃度は低下していた。飽和脂肪酸濃度の変化は認められかなった。 認知機能検査では、1年間でBACSにおける総合得点の上昇が認められた(z-score=-0.32→0.16)。また、不飽和脂肪酸濃度と運動機能、言語流暢性、遂行機能、composite scoreの得点に有意な正の相関が認められた。そのうち、運動機能、言語流暢性はDHA、遂行機能はEPAの上昇との有意な相関が認められ、それぞれ異なった機序を背景としている可能性が示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、認知機能検査の一部で有意な結果を得ているが今後は他の検査との組み合わせにおいてPUFAsの有効性をさらに検討する。事象関連電位(P300、MMN)においては、振幅・潜時に置いて投与前後での有意な改善が認められていない。これについては、おそらく振幅・潜時といったベーシックな測定方法では計り知れない変化が見られている可能性があり、更にLORETA解析(発生源電流密度を三次元的に画像化し各脳部位について定量的な比較を行う方法)などを加えて詳細な解析を進めることを考慮している。 介入期間(1年)が過ぎた患者において、希望にてPUFAsを継続しているものと、そうでない者がいる。これらの患者を比較することで、PUFAsを継続することでどのような効果があるのか、明らかになると考えられる。現在、介入終了後もPUFAs内服を継続している4名の患者(統合失調症3名、ARMS 1名)がおり、今後フォローアップ検査を行う予定としている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究の進行はおおむね順調であるが、予定していた脳波キャップの更新を行わなかったこと(まだ使用可能であったため)により、予算に残額が生じた。 (使用計画)今年度は既に2件の国際学会(招待講演)で研究成果を発信することが内定しており、その旅費に充てる。研究が進行している患者については試薬を購入し、更に、より精度の高い脳波測定のため、脳波キャップの更新を行う。前年度はまだ使用可能であったため更新しなかったが、平成30年度前半に大幅に更新する予定としている。
|