研究実績の概要 |
抑制性神経であるGABA神経伝達障害は、自閉性スペクトラム障害(ASD)における神経ネットワーク障害仮説の神経基盤として重要な役割を担う。オキシトシンはGABA神経の興奮性から抑制性にシフトし、その欠如はASDの発症に関連するとされ、近年オキシトシンのASD治療薬としての可能性が注目されている。一方、ガンマ帯域律動はGABA神経活動を探る有用な手段として注目されている。本研究では、脳磁図のガンマ帯域律動波解析およびネットワーク解析を用いてASDにおけるGABA神経活動および神経ネットワークの障害を浮き彫りにし、さらにオキシトシンの治療効果を踏まえて統合的に検討する。 成人ASD患者を対象に、オキシトシンおよびプラセボ投与後の脳磁図を計測し、さらに臨床症状変化を評価した。脳磁図計測は安静時および40Hz聴性定常反応時をそれぞれ計測した。 本研究課題では、小児ASDおよびASDとの病態生理的類似性が示唆されている統合失調症におけるGABA神経活動異常を、脳磁図のネットワーク解析を用いて捉えた(Takahashi et al., 2017,2018)。これらの結果は、精神疾患におけるGABA神経活動の異常を神経ネットワークレベルにおいて明らかにしたものである。 当該年度では、新規ネットワーク解析アルゴリズムとして、dynamical phase synchronization analysis(Nobukawa et al., 2018)およびtemporal-scale-specific fractal analysis(Nobukawa et al., 2019)の開発を行い、その方法論的妥当性の検証を行った。これらの手法は、神経ネットワークを新たな視点から捉える先駆的な解析法であり、本研究課題を進める上で重要な役割を果たす。
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