研究課題/領域番号 |
16K10209
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
松田 修二 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (70296721)
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研究分担者 |
千田 隆夫 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10187875)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / BRI2 / ペプチド |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は、痴呆症の第一の原因である。高齢化する社会でADに対する対策は急務であるが、原因および治療法とも有効なものが確立されているとは言い難い。ADに特徴的な老人斑の主成分であるβアミロイドはその前駆体であるAPPの代謝により産生される。ADの発症機序はたくさんの説が唱えられているが、これまで知られている家族性ADの原因遺伝子は、APPの変異と、APPを代謝するγセクレターゼの構成因子である、プレセニリン1、プレセニリン2、ニカストリンの変異であり、APPの何らかの代謝異常がADの原因であることに疑いはない。 申請者らは、APPと結合する蛋白質をスクリーニングすることで、2型膜貫通蛋白質であるBRI2を見出した。また、このBRI2がAPPの代謝を細胞レベル、個体レベルで抑制することを世界に先駆けて示した。さらに、このBRI2がAPPと結合してAPPの代謝を抑制するのに必要な最小領域を決定し、その最小領域の中で、βセクレターゼを抑制するアミノ酸10残基の非常に短いペプチド(BRI2ペプチド)を発見した。このBRI2ペプチドは、BRI2-APPの複合体と特異的に結合するが、この結合は、不思議なことに、タグで標識したBRI2ペプチドを生きている細胞の培養液中に加えると検出できるが、細胞を氷上で静置したり、界面活性剤をペプチドとともに加えて可溶化した場合には検出されない。つまり、この結合は、生きている細胞の何らかの活動を必要とする。さらに、このBRI2ペプチドが痴呆症モデルマウスにおこる海馬長期増強の低下を改善することを示した。本研究では、BRI2ペプチドと標的蛋白質の結合が、マウス海馬での記憶保持に役立つ記憶複合体と結合するのではないかとの仮説を立て、BRI2ペプチドに結合する蛋白質をマウス脳から高度に精製することに成功し、十数個の標的分子を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BRI2ペプチドにFLAGタグを付けたものをマウス尾静脈を経由して投与したものでは、ペプチドは嗅球以外にはめだった吸着はなく、脳血液関門を効率良く越えないと判断したので、生きた脳切片を切って、BRI2ペプチドやコントロールペプチドとともに培養すると、海馬の神経細胞の樹状突起様の構造に取り込まれた。BRI2ペプチドに結合する脳内蛋白質分子が、安定して結合する条件を検討し、再現性をもって、脳内タンパク質十数個を特異的に結合することを見出し、質量分析により標的蛋白質を同定しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
(1)結合蛋白質の特異性をさらに確認するため、FLAGタグのみでなく、FLAGタグより分子量の小さいビオチンタグのペプチドを作成し、マウス個体での尾静脈投与を行い、個体マウスでペプチドの脳への結合分布を調べる(2)ビオチンタグでのペプチドで、標的蛋白質の特異性を確認する。(3)同定された標的蛋白質の抗体を用いて、標的蛋白質がBRI2ペプチドに結合することを確認して標的複合体を明らかにし(4)有望なものの遺伝子クローニングを行い、分子生物学的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
BRI2ペプチドに特異的に結合してくる標的蛋白質を精製する、最適な条件を検討するのに、意外と困難を経験したため。結果的には、予備的実験と同様の結果が確認されたので、本質的には実験計画を変更せず、そのまま続行する。
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次年度使用額の使用計画 |
(1)FLAGタグより分子量の小さいビオチンタグのペプチドを作成し、マウス個体での尾静脈投与を行い、個体マウスでペプチドの脳への結合分布を調べる(2)ビオチンタグでのペプチドで、標的蛋白質の特異性を確認する。(3)質量分析で標的蛋白質を同定し、同定された標的蛋白質の抗体を用いて、標的蛋白質がBRI2ペプチドに結合することを確認して標的複合体を明らかにし(4)有望なものの遺伝子クローニングを行い、分子生物学的に解析する。以上の計画に従って、質量分析費用、抗体費用、遺伝子クローニングなど分子生物学的解析費用に用いる。
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