アルツハイマー病(AD)は、高齢者でもっとも多い進行性の痴呆であり、高齢化社会を迎える日本において、その解明は重大な社会貢献となる。ADに特徴的な老人斑の主要な構成要素はベータアミロイド(Aβ)であり、Aβは、その前駆体であるアミロイド蛋白前駆体(APP)が代謝されることで切り出されてくる。ADの発症には種々の説があるが、APPの変異でADが発症すること、その他の遺伝性ADの原因遺伝子はPS1とPS2であり、二つともAPPからアミロイドを切り出す酵素の遺伝子であることから、APPの代謝異常が病態の中心であることは間違いがない。 私どもは、APPに結合しAPPの代謝を抑制する、二型の膜貫通蛋白質であるBRI2を見出した。BRI2はADモデルマウスでADの進行を抑制する。BRI2からペプチドを作成し、APP代謝のβ経路を阻害するという結果を得たので、本研究ではその標的蛋白質を検索した。 BRI2ペプチドをつかって、マウス脳、および培養細胞から、ペプチドに結合してくる蛋白質を精製し、質量解析すると、培養細胞からはペロキシレドキシンであるPRDX1が得られた。PRDX1がAPPの代謝経路に関係するかを調べるために、PRDX1のノックダウンを行うと、BRI2によるAPP代謝の制御が変化した。これは、BRI2によるAPP代謝経路の抑制に、PRDX1が必要とされることを示唆する。 PRDX1は、もともと過酸化水素H2O2を分解する抗酸化作用をもつ酵素である。ADの原因説の一つに酸化的ストレスがあり、その説では、細胞内の蛋白質が酸化を受けることで神経細胞死を起こすと考えられている。本研究の実験からは、その酸化的ストレスの標的が、PRDX1を介したBRI2である可能性を示唆している。
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