研究課題/領域番号 |
16K10212
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
数井 裕光 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (30346217)
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研究分担者 |
貴島 晴彦 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (10332743)
渡邉 嘉之 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (20362733)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 特発性正常圧水頭症 / MRI / アルツハイマー病 / 髄液バイオマーカー / アミロイドPET / シャント術 |
研究実績の概要 |
平成28年4月1日から平成29年3月31日までに阪大病院神経科精神科神経心理専門外来を受診し、特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus: iNPH)診療ガイドラインのpossible iNPHの診断基準を満たした新規患者17例中、11例で髄液排除試験(CSF Tap test:TT)を行い、症状が改善したTT陽性例は8例であった。この8例が本研究の対象候補で、内訳は男/女:5/3例で、iNPH grading scaleの歩行、認知、排尿の各スコア(平均±SD)は2.1±0.4、1.8±1.0、1.4±0.7だった。その他の評価の結果は、modified Rankin Scale 2.1±0.6、Clinical Dementia Rating 0.94±0.63,Mini Mental State Examination 22.5±5.2,Times Up and Go test 16.4±4.5秒(19.9±5.5歩)、10m往復歩行検査27.2±11.6秒(38.5±5.5歩),GSSR 6.2±2.0、ICIQSF3.8±3.2であった。採取したCSF中で、アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)病理を有すると考えられるAD index>3483だった患者は0例(CSF中のアミロイドβ、総タウ蛋白の結果が出ている症例は5例)だった。この8例中シャント術を行ったのが3例で、シャント術待機患者が4例だった。シャント術後の3例については3ヶ月後までの評価が行えた2例でともに歩行検査で改善を認め、1ヶ月後までの評価が行えた1例では認知機能で改善を認め、いずれもシャント術陽性と判定された。また、本研究のデータから、MMSEやADASの虚再認数がiNPHとADの鑑別に有用であるという結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年間の受診症例数としては予定通りであったが、登録症例数は若干不足であり,AD病理の合併が確認できた症例はいなかった。また、新規に開発されたMRIの撮像法であるPhase Difference Enhanced Imaging(PADRE)を大阪大学医学部付属病院の機種に導入する際に、機器およびソフトウエアの調整が必要であることが判明し、今年度、PADREの開発者である熊本大学大学院生命科学研究部 医療科学技術講座の米田博士と大阪大学大学院医学系研究科 放射線科の渡邊博士との間で密な調整作業を行っていただいたが、いまだPADRE導入には至っていない。PADREは米田博士が開発し、特許を取得した脳内アミロイドβの蓄積をとらえることができる最新の撮像法である。熊本大学病院で放射線科専門医とMRI撮像法の調整を行い、熊本大学では日常診療において撮像可能となっている。しかし本撮像法を熊本大学病院以外の施設で実施するのは、初めてである。大阪大学病院では、熊本大学病院のMRIと同じPhilips社製の機種への導入を考え、調整を実施しているが、撮像可能になっていない。予想していたより導入に時間を要しており、予定通り研究が進んでいない状況である。 また本研究ではPADREの撮像が完了した症例に対してアミロイドPETとシャント術後の髄液バイオマーカー測定を実施する計画になっているため、アミロイドPETの撮像とシャント術後の髄液バイオマーカー測定が行えていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後もtap testおよび髄液バイオマーカーの測定を積極的に行っていき、登録の候補となる症例数を増加させる。また、PADREを大阪大学医学部付属病院で撮像可能となるよう、機器とソフトウェアの調整を熊本大学の米田博士と大阪大学放射線科の渡邊博士との間で引き続き行っていただき、次年度からは撮像可能とする。登録された症例に対しては、PADREを撮像し、かつ髄液バイオマーカーでアルツハイマー病理を確認できた症例に対してはアミロイドPETを施行する。 現在、Philips社の技師もまじえて渡邊博士、米田博士が協議をかさね、PADREの導入を急いでいるところである。この撮像法が円滑に導入できるようにするためのソフトウェアの更新も行う予定であり、これにより来年度にはPADREが実施できると考えている。 今回はアルツハイマー病理を有すると思われる症例は0例であった。今後は、アルツハイマー病を合併すると考えられるiNPH症例をより多く見つけ出し、それらの症例に対して、積極的にtap testおよび髄液バイオマーカー測定を行っていく必要がある。関連病院に依頼し、認知症の症例を多数大阪大学医学部付属病院に紹介していただくことで、アルツハイマー病理を合併したiNPH症例の数は確実に増えていくと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
【現在までの進捗状況】の項目に記載した通り、本年度は大阪大学医学部付属病院にPADREを導入することができなかったため、アミロイドPETを施行できなかった。本研究では、アミロイドPETを実施する費用に加え、この検査を施行する近畿大学病院までの交通費も研究費から支給する予定であった。このため本年度PET検査関連予算として計上していた研究費が使用できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度実施できなかったアミロイドPET検査を、次年度はPADRE検査を実施できる体制を早急に構築して行う予定である。したがって、次年度には当初予定していたアミロイドPET施行症例に加えて今年度予定していたが実施できなかった症例にもアミロイドPETを行う予定である。この追加症例に対するアミロイドPET施行費用および関連費用に、次年度使用額を使用する予定である。
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