研究課題
うつ病患者の60%が再発を経験し,再発を繰り返すごとに再発率がさらに高まることが報告されている。うつ病の再発を抑える新たな生物学的治療法が求められている。情動とはストレスに対する一時的な強い感情状態と定義され,本人にとって好ましくないストレスに対してはネガティブ情動(怒り,悲しみ,恐怖)が出現し,その後のストレス反応(うつ,不安など)を惹起するため,情動調整能力はストレス反応制御に重要であると考えた。また、うつ病の再発には対人関係や過労などのネガティブなストレスが関与していることが知られているが,うつ病再発の生物学的メカニズムはほとんど解明されていない。ニューロフィードバック(Neurofeedback:NF)とは,被験者が脳機能検査中に自分の脳活動をモニターでリアルタイムに見ながら,自らの脳活動コントロールを学ぶことであるが、 うつ病患者において,情動刺激に対する前頭葉の機能異常が報告されているため、情動刺激に対する前頭葉の機能障害をNFを用いて改善できれば,うつ病治療に有用な可能性があると思われた。まず、情動刺激に対する脳機能変化を調整するための手段として,うつ病の症状改善にエビデンスのある認知療法の1つであるマインドフルネスから,呼吸法を用いることとし、加えて、われわれの既報の情動語刺激から陰性の情動文課題を作り,それを情動刺激とした。それらを用いて、健常人を対象とした前頭部NFを行ったところ、1.検査前後で被験者の陽性情動が有意に低下しており,情動文刺激は刺激課題として有効な可能性を認めた,2.NFは気分を改善する有意な効果があるとともに,陰性刺激に対して,前頭部機能を上昇させることを明らかにした(松原敏郎,健常人における情動文課題中の近赤外線スペクトロスコピィを用いたニューロフィードバック第38回日本生物学的精神医学会,福岡市,2016年9月)。
3: やや遅れている
ニューロフィードバックシステムの中の、脳血流を変化させる課題の有効性の検討に時間がかかった。
健常人において、課題の有効性および情動調整に関わる前頭葉領域を明確にする。その結果を基に、コントロール群に施行するsham-ニューロフィードバックを完成させたうえで、被験者である反復性うつ病患者のリクルートに取りかかる予定である。
【物品費】効果的なNFシステムの作成のために当大学工学部と連携して、脳血流変化を示すソフトを開発する予定であったが、まだ準備段階であり、未使用額が生じた。
【物品費】健常人を使った予備研究から、ニューロフィードバックに対して前頭葉において脳血流が変化する部位を特定し、脳血流の変化を棒グラフで視覚化し、より被験者に分かり易くフィードバックするコンピューターソフトを、Matlabソフトを使って作成する。未使用額はこの開発費に充てる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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