研究課題/領域番号 |
16K10225
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
岩波 明 昭和大学, 医学部, 教授 (80276518)
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研究分担者 |
高塩 理 昭和大学, 医学部, 准教授 (00384256)
岡島 由佳 昭和大学, 医学部, 准教授 (50317525)
谷 将之 昭和大学, 医学部, 講師 (70384500)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ADHD / ASD / アイトラッカー / 心の理論 |
研究実績の概要 |
本研究は、成人期の主要な発達障害であるADHD(注意欠如多動性障害)とASD(自閉症スペクトラム障害)を鑑別可能な生物学的指標を求めることを目的としている。ADHD とASD は、生活上、行動上の問題行動やトラブルは類似している面が多く、実地臨床においては診断に悩む例も少なくなく、両者の症状が併存しているケースもみられる。しかしながら、現時点においては、両者を鑑別する生物学的な指標は得られていない。本研究は、非侵襲的な検査方法であるアイトラッカーによる視線計測を用いてADHD とASD を鑑別する臨床的な指標を求め、成人の発達障害の治療およびリハビリテーション、あるいは社会復帰に寄与することを目的としている。 これまでASD においては、他人の心を推察する能力である「心の理論」(Theory of Mind)に障害がみられることが指摘されている。成人の高機能ASD においては、経験、学習などの効果などによって、通常の「心の理論」の検査課題において異常を示さないことが多いが、アイトラッカーによる視線計測においては、健常者と異なる反応を示すことがSenju ら(2009)、Schneider ら(2013)によって報告されている。われわれは本研究に対する予備的な検討として、成人期のASD の当事者を対象として、トビー社のアイトラッカーを用いて、Senju ら(2009)の課題と類似の動画を注視している際の視線を計測した。その結果、健常者との比較において、ASD においては、誤信念を抱く場面における視線の注視部位が異なっていた。本研究においては、ASD に加えてADHD の当事者を対象とし、同様の視線計測を行なったが、ADHDにおいては心の理論の障害はみられなかった。ASDとADHDの両者とも、健常者と比較して、動画上の顔に対する注視時間が有意に短かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでADHD とASD は別個の疾患と考えられ、臨床症状は類似しているにもかかわらず、共通した病態や臨床症状が数多く認められるという観点から検討されることは少なかった。昭和大学附属烏山病院および昭和大学病院附属東病院は、発達障害の専門外来および発達障害に特化したデイケア・ショートケアを開設しており、多数のADHD およびASD の当事者の協力を得られる環境にある。このためADHD とASD を包括的に扱えることが利点であり、これまでの研究においてはこの利点を活用できている。 心の理論に関しては、これまでの研究において、ASD の当事者においては、生育過程において健常者と同様の能力を獲得していくと考えられていた。けれども、アイトラッカーを用いた研究においては、高機能のASD の当事者において、特徴的な視線の動きを示すことが明らかとなっており、潜在的な心の理論の障害を示すことが示されている。本研究ではASDにおいてこのような結果を確認できたことに加えて、新たにADHDを対象とした結果においては心の理論に異常を示さないことを明らかとした。このようにアイトラッカーを用いた「心の理論」を検査課題とすることによって、今後、ADHD とASD の鑑別診断の有力な指標を得られる可能性を示している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の対象は、昭和大学附属烏山病院および昭和大学病院附属東病院に外来通院中の ADHD およびASD の当事者であり、現在まで各30 例についてアイトラッカーによる検査を施行した。現在まで行なった検査はSenjuらによる方法を用いたものであるが、今後、Schneiderらによる方法を用いて検査を行なう予定である。またこれまでのところ、精神症状と検査結果についての検討を十分に行っていない。このため、今後、CAARSおよびADOSを用いてADHD症状、ASD症状を評価し、精神症状と心の理論の検査結果との関係について検討を行う。この検討のためには、各群をさらに細分化し、ASD 症状を伴うADHD 群、ASD症状を伴わないADHD 群、ADHD 症状を伴うASD 群、ADHD 症状を伴わないASD 群の比較を行う予定である。またADOSの記録については海外での研修が必要であるため、研究協力者がコーネル大学の研修会に参加した。 さらにADHDとASDの鑑別するための検査として、現在、表情認知課題について開発中である。この課題を施行中における光トポグラフィーを計測し、本研究に行なっている心の理論に関する研究との対応を検討する予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、「心の理論」に関する課題と「表情認知課題」について、新たな検査プログラムを開発しているが、これが完成にいたらないために、次年度における使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
「心の理論」に関する課題と「表情認知課題」について、新たな検査プログラムを開発するための経費としてあてる予定である。
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