研究課題
これまでASD においては、他人の心を推察する能力である「心の理論」(Theory of Mind)に障害がみられることが指摘されている。成人の高機能ASD においては通常の「心の理論」の検査課題において異常を示さないことが多いが、アイトラッカーによる視線計測においては、健常者と異なる反応を示すことがSenju ら(2009)、Schneider ら(2013)によって報告されている。けれども現時点においては、アイトラッカーを用いた心の理論の研究は十分に検討されておらず、またADHD の成人を対象とした研究はわれわれの知る限りは報告されていない。われわれは本研究に対する予備的な検討として、成人期のASD の当事者を対象として、トビー社のアイトラッカーを用いて、Senju ら(2009)の課題と類似の動画を注視している際の視線を計測した。少数例における結果であるが、健常者との比較において、ASD においては、誤信念を抱く場面における視線の注視部位が異なっていた。本研究においては、ASD に加えてADHD の当事者を対象とし、視線計測における注視点とADHD症状・ASD 症状との関連を検討するとともに、視線計測の指標がADHD とASD の鑑別に有用であるか検討を行なった。本研究における結果では,健常成人群において左右の注視時間に有意な差はなかったが,ASD群においては左側(誤信念側)への注視時間は反対側への注視時間に比べて有意に短かかった.また,健常成人群とASD群の顔への注視時間を比較するとASD群では健常成人群と比べて顔への注視時間が短かった。これに対して、ADHD群においては、左右差はみられなかったものの、顔への注視時間は短かった。以上の結果は、ADHDにおいては心の理論の機能は保持されており、ASDとの鑑別点になることを示している。
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Neuropsychiatr Dis Treat
巻: 15 ページ: 3367-3374
10.2147/NDT.S232565.