研究課題/領域番号 |
16K10228
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
黒川 真奈絵 聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 教授 (90301598)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レビー小体型認知症 / バイオマーカー / 血清ぺプチド / 質量分析 |
研究実績の概要 |
レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies, DLB)の診断に有用な血清ペプチドマーカー確立のため、DLB/nonDLB-4Pモデル(Int J Geriatr Psychiatry 2015;30:1195)に含まれる質量電荷比4090m/zのペプチドのアミノ酸配列と親蛋白質を同定した。 DLB/nonDLB-4P及び2Pモデルを構成するペプチドのイオン強度を、内部標準(internal control, IC)ペプチドを用い、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(matrix-assisted laser desorption/ionization time of flight mass spectrometry, MALDI-TOF/MS)で定量する系の確立を試みた。このために、弱陽イオン交換(weak cation exchange, WCX)で血清より分離可能で、マトリックス存在下にてレーザー照射で良好なイオン化が確認されている、陽性対照(positive control, PC)ペプチドを用いた。ICペプチドは、PCペプチドと同じアミノ酸配列を、一部のアミノ酸に安定同位体を標識して合成し、PCペプチドより8 m/z大きく検出されるよう設定した。PCペプチドを含まない健常人血清4例の混合物に、PCペプチドを54、27、13.5、6.75、0 pmol/μLになるよう混和した。ICペプチドはこの5検体全てに30 pmol/μL混和した。これら検体よりWCXでペプチドを抽出し、MALDI-TOF/MS により検出したICペプチドイオン強度に対するPCペプチドイオン強度の比率を計算して検量線を作成したところ、y=0.0415x+0.0027 (R2=0.9987)の直線として表された。ICを用いたMALDI-TOF/MS による血清ペプチドの定量法を確立出来た。 ELISAによるペプチド定量系の確立も考えていたが、別途申請し抗体の樹立に当てる予定であった民間助成金の採択が叶わず、現在施行が難しい。今後はDLB/nonDLB-4P及び2Pモデルを構成する1737、2898、4052、4090、5002m/zのペプチドについて、PCペプチドと同様MALDI-TOF/MS による定量系を確立し、上記モデルのDLBバイオマーカーとしての有用性を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
質量電荷比4090m/zのペプチドを、液体クロマトグラフィー質量分析 (liquid chromatography-mass spectrometry, LC-MS) にて同定した。DLB/nonDLB-4Pモデル及び2Pモデルを構成する5002m/zのペプチドは現在同定中である。1737、2898、4052、4090m/zのペプチドは、既に検量線作成用の安定同位体非標識ペプチドを合成しており、安定同位体標識ICペプチドのデザインを終えている。1737、2898 m/zのペプチドは、安定同位体標識ICペプチドも合成している。先に述べたようにELISAによる定量系の樹立は現在施行が難しい状態であるが、ICペプチドを用いたMALDI-TOF/MSの定量系が予想より高精度な結果を示しており、当該法にて定量を進めていく。 実際の臨床検体で定量を始めるため、申請者の所属機関では既に臨床試験を申請し承認を得ており、PCペプチドのピークが高値・中等度値・低値に検出される血清を各々5検体以上ずつ収集している。またDLB、アルツハイマー型認知症 (Alzheimer’s disease, AD)、パーキンソン病 (Parkinson’s disease, PD)、その他の老年性認知症、老年性認知症以外の高齢者の精神疾患、軽度認知障害 (mild cognitive impairment, MCI) などの症例の収集のため、神経精神科及び神経内科を有する複数の医療機関に依頼し、他施設共同臨床試験の準備を進めている。既にDLB、AD、PDについては各群100例以上収集出来る目処がついている。老年性認知症、老年性認知症以外の高齢者精神疾患、及びMCIについても、上記医療機関において多数の症例を確認している。健常人は重要な対照群であり、高齢者の健常人は限られることより、健康診断センターや治験施設に協力を依頼している。 以上のように、バイオマーカーとなるモデルを構成する各々の血清ペプチドの定量法の基盤を確立し、今後個々のペプチドの定量系を構築しながら、各疾患の症例及び健常人が来院する医療機関との他施設共同研究臨床試験を立ち上げている。
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今後の研究の推進方策 |
5002 m/zの血清ペプチドを同定する。質量電荷比が比較的大きいことから、MALDI-TOF/MSでの同定は難しいと考えられるため、引き続きLC-MSでの同定を進める。ピーク強度の高い血清を用い、ペプチドの精製法を工夫し同定を試みる。 PCペプチドのピークが高値・中等値・低値に検出される血清を、昨年度に確立したICを用いたMALDI-TOF/MSによる測定で定量し、合成PCペプチドのピーク値にほぼ応じた定量結果が得られるか検討する。 1737、2898、4052及び4090 m/zの各ペプチドにおいて、まず安定同位体標識ICペプチドが安定同位体非標識ペプチドと比べて、やや質量電荷比が大きなピークとして検出されるかをMALDI-TOF/MSで確認する。PCペプチドと同様に、同一検体中の一定濃度の安定同位体標識ICペプチドに対して安定同位体非標識ペプチドの濃度を変化させた検体を準備し、検量線の作成を試みる。これらのペプチドを含む血清を収集し、定量が可能か検討する。5002 m/zのペプチドが同定出来たら、同様に測定系の確立を進める。ELISAによる血清ペプチド定量は、一旦中止することとする。 申請者の機関で他施設共同試験の臨床試験を申請し、承認後に各医療機関での臨床試験の申請を依頼する。各医療機関での承認後に、被験者の同意のもとで血清の収集を開始する。DLB、AD、PDは各群100例以上収集する。老年性認知症と老年性認知症以外の高齢者精神疾患は、各々を一群とし、その亜型を解析することで、上記2バイオマーカーがDLB以外にも疾患特異的な動向を示さないか確認する。MCIと健常人は重要な対照群であるため、mini-mental state examination (MMSE) 等にて被験者の認知機能を確認しながら慎重に収集する。収集した血清を用い上記5ペプチドを定量し、DLB/nonDLB-4P及び 2Pモデルが新規定量法による多数症例の測定においても、DLBの有用な血液バイオマーカーとなるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は消耗品費のみとし、WCXキット、マイクロピペット一式、1737、2898、4052、4090m/zの安定同位体非標識ペプチドと1737、2898m/zの安定同位体標識ICペプチドを購入した。しかしペプチド合成、特に高額な安定同位体標識ペプチドの合成に長期間を要していることと、年度末近くに発注した物品の会計処理が終了していないことより、次年度支払が生じた。 また4052、4090m/zの安定同位体標識ICペプチドの合成を次年度に変更したことも、次年度支払が生じた原因である。標識ペプチドについては、当該ペプチドの同位体が検出されない質量電荷比、即ち当該ペプチドの質量電荷比+8~10 m/zとなるようデザインされている。標識ペプチドに対する非標識ペプチドのイオン強度比が容易に算出される予定であるが、実際のところは不明である。そこで標識ペプチドは、まず比較的分子量が小さく低価格の1737、2898 m/zのペプチドのみを合成して、結果を確認することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
1737m/zと2898m/zのペプチド定量系がデザインの通り良好に測定出来れば、4052m/z及び4090m/zのペプチドも同様に安定同位体標識ペプチドをデザインし、合成して定量を進めていく。また5002m/zのペプチドが同定されれば、これも安定同位体非標識・標識ペプチドをデザイン・合成し、定量系の確立を進める。今後発注するペプチドの方が、これまでより分子量が大きく高価格となるため、1737m/zと2898m/zのペプチドの定量結果を慎重に判断していく。その他、実際に購入手続きが終了した物品の支払を、順次行っていく。
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