研究課題/領域番号 |
16K10231
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山中 創 京都大学, 霊長類研究所, 特定研究員 (10415573)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 霊長類 / リポポリサッカライド / うつ病モデル |
研究実績の概要 |
本研究は側坐核・腹側淡蒼球におけるセロトニン1Bレセプターがうつ病の病因があるとういう「セロトニン1Bレセプター仮説」を検証することが最終目標である。平成29年度は行動評価系のスクロース嗜好性テスト(SPT)をさらに改良し一日で3濃度(0、0.25、1.0%)が実施できるシステムを構築し、ヒトでうつ状態を引き起こすことが知られているリポポリサッカライド(LPS)を投与し、その表面妥当性評価を行った。疾患モデル研究において最も重要な課題はどの濃度のスクロースを用いるかである。5%のように極端に高い濃度を用いることになれば、たとえうつ状態を呈していたとしてもスクロース水をより好むかもしれない。個体による変動を網羅的に捉えるために一日に3濃度を提示する戦略を選択した。前年度において描出したスクロース濃度―反応曲線を基にし、0、0.25、1.0%の3濃度が選ばれた。最適な提示順序を見つけるために、6通りの提示を行い高い選好性と消費量などの観点から、0.25->1.0->0%スクロースの提示順序が快感喪失行動を標的とした研究においては最適であることが示唆された。LPSはグラム陰性菌の外膜の構成成分であり炎症反応を誘発するが、マウスへのLPS投与はうつ病様行動(砂糖水への選好性喪失や強制水泳法における無動時間延長)を引き起こすだけではなく、ヒトの静脈投与においては数時間後にうつ病評価尺度が上昇することが知られている。LPS処置による快感喪失行動の兆候を検出するために、7頭のマカクザルにLPSを投与し3時間後に行動評価した。その結果、すべての個体においてスクロース水摂取量の低下が認められたものの、スクロース水に対する選好性低下は2頭のみ観察された。この投与用量は人への投与用量と比較して極端に高いことから、げっ歯類より低い用量にて検討する必要性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「5-HT1Bレセプターの分布と発現量のin vivo解析」において陽電子放出断層撮影法(PET)を用いたLPS投与時の脳内状態評価において2頭実施した。脳内炎症をとらえることができるPETトレーサーPK11195においては明瞭な炎症部位は特定されず、行動における変化に焦点を向ける必要性がある。摂餌量においては減少傾向が認められ、操作的診断基準にも含まれる兆候である。また、うつ病様行動への影響をセロトニン1Bレセプター関連分子の局所的な強制発現抑制により評価する点において、shRNAベクターは投与し、現在標的領域である側坐核および腹側淡蒼球におけるマーカー蛋白局在を確認するための組織学的検討は進行中である。行動評価におけるLPSモデルの評価は進捗したものの、イメージングに関するin vivo解析や関連分子特異的な局所発現導入実験が遅れていることから、全体として研究がやや遅れ気味であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は当初の予定の中から以下の研究計画を重点的に推し進める。 1)低用量LPS投与によるうつ病様行動変化を検討し、ヒトに近い用量においてSPTが影響受けるか否かを明確にする。最適な用量を比較検討する必要があり、休薬期間を置き繰り返し利用することでできるだけ個体数を少なくする。 2)うつ病様行動の質を重視した解析法の確立を目指す。具体的には、活動量ではなく抑うつ的な行動であるhuddlingの出現頻度の数値化を試みる。ビデオ観察を主に用い、現存のケージにおいて最適な録画方法を検討し、簡便な評価可能システムを構築するために過去の方法なども参考にする。 3)ウイルスベクターによる遺伝子導入方法の改良を試みる。組織化学的精査を待たなくてはならないが、正確に効率よく標的領域である側坐核・腹側淡蒼球にウイルスベクターを注入する技術を確かなものとし、局所的な関連分子の発現調節法を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
異動に伴い研究環境が変化した為に計画時の予定金額と執行金額の間に差が生じた。主に、実験機器の変更を実施する上で選定および設置・立ち上げに時間を費やす必要性があったことに起因する。しかし、研究計画に関しては大きな変更はないので、申請時の予定通り研究を進めていく。
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