今年度はうつ状態の行動学的評価の具体的な方法論について検討した。うつ病の症状は多種多様であることから、そのモデル動物も多くの側面からの評価が必要不可欠である。「精神障害の診断および統計マニュアル(DSM)」はうつ病研究診断のグローバルスタンダードであり、この基準に9つもの症状があげられている。このようなことからモデル動物では多数のテストを組み合わせた多面的なテストバッテリーシステムを構築した。ヒトにおいてうつ病が発症する薬剤レセルピンをサルに投与し、行動を中心とした6種類のテストを組み込んだテストバッテリーを毎日実施し、経時変化を評価した。レセルピンに明確に反応した個体(Responder)をスクリーニングしたところ、9頭中1~4頭ずつのResponderがテストごとに見つかり、うち1頭だけが6テストすべてに共通してResponderとなった。本研究におけるこの出現率(11%)と臨床報告でのうつ病発症率(19%)はほぼ同値であることから、このテストバッテリーは有用であることが示唆された。このようなことから、霊長類に特化した評価方法として、以下3点の重要性が明確になった。まずは、経時的な変化の把握である。対象数が少なく遺伝的背景のばらつきが大きい霊長類では、症状の出現変化パターンに焦点を当て、効率性を重視する必要がある。そのためには薬物などで症状を明確にオンオフできる実験スケジュールを立てることが必須である。次に、多面的な評価を実施である。うつ病の多様な臨床症状を網羅する為にDSMのような多面的なテストバッテリーを適用する必要である。最後に、テストごとの個別評価である。テスト指標間の因果関係の究明は除外し、客観的に個別の症状を独立して評価することで、臨床研究のグローバルスタンダードとなっているDSMと同様の方針をとることが可能となる。
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