研究課題/領域番号 |
16K10234
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
太田 深秀 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第三部, 室長 (00582785)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | DTI / DKI / MRI / NODDI |
研究実績の概要 |
水分子の拡散現象を利用して生体組織の性質を画像化する拡散強調画像は、超急性期脳梗塞を従来の MRI の撮像法や CT より敏感に描出できることから1990年代後半に急速に臨床応用が進んだ。拡散強調画像では分子拡散の遷移確率密度分布を正規分布と仮定して得られたmean diffusivity (MD)や水分子の動きをテンソルとして表示するfractional anisotropy (FA)が主な指標として使用されてきた。しかし拡散強調画像が元来有する豊富な生体情報をまだ十分に生かしきれているとはいえない。近年、非正規分布に従う遷移確率密度分布用いた解析方法が生体組織の微細構造による制限拡散を強く反映するものとして注目されている。拡散MRI(dMRI)のうち拡散尖度画像(diffusional kurtosis imaging; DKI)では空間方向の平均値としてmean kurtosis (MK)という指標が用いられており、これはMDやFAと比較して微細構造変化を鋭敏に捉えることが可能であると考えられている。一方、FAやMKの変化は非特異的であり、この変化は神経突起密度の変化なのか神経突起散乱の変化なのかはわからなかった。そこで拡散MRIで得られた元画像から神経突起密度や神経突起散乱を算出する再構成法、Neurite Orientation Dispersion and Density Imaging (NODDI)が開発された。今年度はこのDKIとNODDIの撮影および解析が可能となる環境整備を行ない、各パラメーター同士の関連を明らかにした他、健常者を対象とした各パラメーターの正常加齢性変化について検討を行った。今後、この新規検査法を精神疾患に用いることで、これまで明らかにできなかった微細な構造変化を見つけることが可能となるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、拡散テンソル画像を発展させた拡散尖度画像(DKI) と、神経突起密度(NDI)や神経突起散乱(ODI)を算出する再構成法、神経突起方向散乱・密度イメージング(NODDI)が生体組織の微細構造変化を鋭敏に捉えうるとして注目されている。今回我々はDKIやNODDIを用いた指標と従来の測定法との関連を検証した。また正常加齢性変化について各dMRI metricsで検討した。健常被験者23名を対象にPhilips社製 3T MR systemにより3次元T1強調画像とdMRIを撮影した。 結果、fractional anisotropy (FA) value はmean kurtosis (MK) や神経突起密度(NDI)valueと有意な正の相関を、mean diffusivity (MD)と神経突起散乱(ODI) value とは有意な負の相関を脳全体で認めた。MK valueはNDI valueと正の相関を、ODI valueとは負の相関を狭い領域において認めた。ODIとNDI valueは負の相関を限られた領域内において認めた。年齢との相関検討ではMK と NDI valueにて線条体などの領域で正の相関を認めた。一方、ODI valueによる解析では、尾状核などの領域において年齢と有意な負の相関を認めた。 ODIとNDI valueは各々意味合いの異なる指標であるが、これらは共にFA valueと関連して変化することが明らかになった。このためODIとNDI value間でも軽度の相関が確認されたものと推測された。またMKおよびNDI valueと年齢との間に正の相関が認められた。基底核などの神経線維走行が複雑に絡み合う領域では神経線維の密度が軽度に疎になることで神経線維走行方向が整い、逆にMKおよびNDI valueが上昇したものと推測された。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には拡散尖度画像(diffusional kurtosis imaging; DKI)やNeurite Orientation Dispersion and Density Imaging (NODDI)といった大脳の微細構造変化を検討する新しい検査法を確立した。平成29年度からは統合失調症や大うつ病性障害、双極性障害といった精神疾患を対象に検討を行い、疾患特異的な変化やその重症度と関連しうる脳領域の発見などを行い、疾患に関する知見を集積していく。あわせて行っている脳関髄液検査より脳脊髄液蛋白バイオマーカーとして有効と思われるタンパク、具体的には神経伸長やシナプス可塑性に深く関わるグリコシルホスファチジルイノシトールやL1、リン脂質構成に関わるエタノールアミンなどに注目し、脳脊髄液中の蛋白濃度と、MRIを用いた画像情報から得られる大脳皮質容量や神経線維束の微細構造、脳実質内のグルタミン酸などの代謝物濃度、局所脳血流量との関連を検討する。また、当初の計画通り平成29年度には精神疾患モデルマウス、具体的にはlipopolysaccharide (LPS)の反復投与や慢性拘束ストレス、高脂肪食負荷、単離飼育などによりうつ症状を発現させた大うつ病性障害モデルラットを対象とした動物PET検査、特に活性型ミクログリア評価用リガンドである[11C]P2X7 receptor antagonist pyroglutamic acid amide analogues (PGAAs)や[11C]PK11195を用いた検査を行い、精神疾患における脳内炎症についても検討を重ねていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
パソコンのアプリケーションのライセンス延長契約を締結する予定であったが、年度内に契約が成立しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した助成金は予定通り消耗品や謝金、旅費として使用するかたわら、今年度に締結できなかったライセンスの契約を次年度使用額より捻出する予定である。
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