研究課題
うつ病による休職者は、職場でのストレスフルな出来事が認知や行動に強く影響して、復職後の再発につながるケースがある。生命の危機に関わらない苦痛な出来事であっても、心的外傷後ストレス障害様の症状を起こすことが知られているが、本研究では、そのような職場でのストレスフルな出来事の記憶を「職場トラウマ記憶」と定義した上で、性質を探索的に明らかにし、心的イメージを用いて書き直しを行う「職場トラウマ記憶に対するイメージ書き直し技法(imagery rescripting: IR)」の導入・効果検証とを目的とする。2018年度はうつ病復職支援プログラム(リワーク)に参加している患者45名(女性13名、M=36.69 ± 10.39) に対し、「職場トラウマ記憶」のうち、心的外傷後ストレス障害におけるトラウマ記憶の特徴の1つである、「侵入的に体験される記憶」について調査を行った。その結果40名(89%、うち女性12名)が1つ以上の侵入的な職場トラウマ記憶を持っていた(M=2.76±2.28)。さらに、この侵入記憶の中で最もつらい記憶についての性質について明らかにした。1週間の出現頻度の平均は2.62(±1.15、最大値10、最小値0)であった。またこれらの侵入的な記憶は自己・周囲や、仕事に対する否定的な信念と結びついていることが多いことが分かった。例えば26名(65%)は「私は無能である」などの「自己」について、21名(53%)は「他者は批判的である」などの「周囲」について、26名(65%)は「仕事ができないと居場所はない/必要とされない」などの「仕事」について、侵入記憶と結びついた信念を持っていた。さらに、職場トラウマ記憶を書き直すIRを開発し、6例に対して施行し、うち3名について有効性の検証を行い、「否定的な気分」、「スキーマに対する確信度」、「記憶のつらさ」などについて改善をみた。
3: やや遅れている
2017年度作成したリワークプログラム内での実施に適したイメージ書き直し技法について、2018年度は特に出来事に対して客観的な視点を得やすくすることやトラウマ場面を再演する際のイメージの鮮明化についてさらなる改良を加える必要があった。また、この技法のトレーニング、および実施する臨床現場での調整に想定以上の時間を要した。
2019年度は昨年度完成した職場トラウマ記憶に対するイメージ書き直し技法を、リワークプログラムに参加しているさらに多くの患者に実施し、「記憶に対する苦痛度」、「記憶の鮮やかさ」、「侵入体験の頻度」、「記憶による生活困難度」、「記憶に関連する否定的な信念の確信度」の改善、および「抑うつ症状」への効果を検討する。また、うつ病の再発、再休職を繰り返している患者と初発の患者の職場トラウマ記憶の性質やイメージ書き直し技法の効果についても比較を行う。
2017年度作成したリワークプログラム内での実施に適したイメージ書き直し技法について、2018年度は特に出来事に対して客観的な視点を得やすくすることやトラウマ場面を再演する際のイメージの鮮明化についてさらなる改良を加える必要があった。また、この技法のトレーニング、および実施する臨床現場での調整に想定以上の時間を要した。このため、2018年度までに十分な被験者に対してイメージ書き直し技法を実施することができなかった。従って、2019年度も本研究を継続し更なるデータを集め、結果を公表するため、次年度に助成金を残す必要があった。次年度は完成した職場トラウマ記憶に対するイメージ書き直し技法を、リワークプログラムに参加しているさらに多くの患者に実施し、「記憶に対する苦痛度」、「記憶の鮮やかさ」、「侵入体験の頻度」、「記憶による生活困難度」、「記憶に関連する否定的な信念の確信度」の改善、および「抑うつ症状」への効果を検討する。また、うつ病の再発、再休職を繰り返している患者と初発の患者の職場トラウマ記憶の性質やイメージ書き直しの効果についても比較を行う。これらの計画の実施のための諸経費、さらに成果を公表するための学会旅費、学会参加費、論文作成、英文校正等に使用する計画である。
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Psychotherapy and Psychosomatics.
巻: - ページ: -
Journal of medical Internet research.
巻: 20(12) ページ: -
10.2196/12091.