研究実績の概要 |
うつ病等の精神疾患により休職した従業員に対するリハビリテーションプログラム(リワークプログラム)が実践され高い効果を上げているがプログラムの途中でドロップアウトしたり、終了後に再発、再休職を繰り返すケースも見られ、難治化のメカニズムの解明と技法上の工夫が求められる。近年の難治性のうつ病患者と寛解患者を比較した研究では、難治性のうつ病患者は、うつ病の引き金になったライフイベントに対する精神的苦痛が強いことを報告しており(Kimura et, al., 2015)、この点に注目した治療が必要である可能性が考えられる。したがって本研究では、うつ病等による休職者が、現在の精神症状に影響を与えていると感じている職場におけるライフイベントの記憶を「職場トラウマ記憶」と定義したうえで、その性質を探索的に明らかにし、リワークプログラム参加によって「職場トラウマ記憶」に結び付いた精神症状の改善がどの程度生じるかを検証した。さらに「職場トラウマ記憶」をイメージ上で書き直すことに特に焦点を当てた認知行動療法の技法の効果を検証した。最終年度となる本年度は、心的外傷後ストレス障害の症状評価尺度であるIES-Rの得点に関して、リワーク参加開始時と終了時を比較した結果、終了時の得点が開始時の得点を有意に下回ることが分かった。また、リワーク開始時のIES-R得点が、カットオフ値24点を上回る参加者が半数以上であった一方、リワーク終了時には10%となり大きく減少したが、終了時にもカットオフ値を上回っている参加者がいることがわかった。最後に、「職場トラウマ記憶」に焦点を当てて記憶とその意味付けをイメージ上で書き直す「イメージ書き直し」技法の前後で、記憶に対する苦痛の程度、コントロールの難しさ、および記憶によって信じ込むに至った仕事に対するネガティブな信念の確信度が有意に改善していた 。
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