研究課題
本研究は、0-6歳の就学前の自閉スペクトラム症児と健常児を対象に、音の刺激によって引き起こされる大脳皮質の反応の違いを小児用脳磁計(Magnetoencephaligraphy、MEG)によって捉えた。同時に、聴覚機構の鼓膜から内耳、中耳を対象とした耳鼻咽喉科学的な聴覚検査を加えることにより、聴覚情報処理過程の末梢から中枢処理を解析し、自閉スペクトラム症児の言語発達及び聴覚過敏との関係を調査した。最終年度までに、自閉スペクトラム症児38名(男児28名、女児10名)、定型発達児42名(男児28名、女児14名)のデータを取得した。MEGによる聴覚刺激に対する脳反応を解析した結果、初期の成分(P1m)が起こる速さについて、自閉スペクトラム症児と定型発達児の間に有意な差は認められなかった。また、反応の大きさについても、左右半球ともに定型発達児の方が反応が大きい傾向が認められたが、有意差には至らなかった。認知機能の関係について、定型発達児においては、左半球において刺激後約100msにみられる成分(P1m)の潜時と、言語の概念的推論課題の間に弱い負の相関が認められた。すなわち、左半球での聴覚刺激に対する反応が早い子どもほど、その時点での言語の概念的推論能力が高い傾向があるという結果であった。また、自閉スペクトラム症児においては右半球での聴覚刺激に対する反応が大きい子どもほど、視覚類推能力が高いという結果が得られた。末梢系の聴力評価(定型発達児23名、自閉スペクトラム症児26名)の比較では、純音聴力検査において、定型発達児に比べ、自閉スペクトラム症児の聴力の程度が左右耳ともに低い傾向がみられた。本研究の結果から、定型発達児と自閉スペクトラム症児における聴覚処理機構の機能的な相違が示唆された。
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Psychiatry Res Neuroimaging
巻: 30 ページ: 117-122
10.1016/j.pscychresns.2018.05.003