研究課題
今年度は、研究参加者の診断の信頼性を担保する目的から自閉症診断面接法(Autism Diagnostic Interview-Revised)の研究ライセンス講習会を受講するとともに、研究参加者の対人関係障害等の臨床表現型の評価の信頼性を担保する目的から、自閉症スペクトラム観察検査(Autism Diagnostic Observation Schedule Second Edition)の研究ライセンス講習会受講ならびに実施手順の適切性についてのフィードバックを受け、研究参加者の診断と臨床評価体制を確立した。加えて、社会的刺激として、幸福、怒り、悲しみ、嫌悪、驚きの6表情に対する認知課題の正答率と誤答パターン、ならびに、これらの表情のモーフィング画像に対する解答パターンを分析した。臨床試験参加者に対して、治験薬投与前後で比較したところ、怒りと嫌悪の正答率が有意に改善しており、誤答パターンの分析では、怒りを嫌悪、あるいは、嫌悪と怒りと誤答する回答が減少していた。対人関係障害の程度や日常生活機能との関係は、サンプルサイズの小ささから明確にしえなかった。怒りと嫌悪は、ともに否定的情動であるが、怒りが相手への攻撃性を示し、それを見たものはfight or fleetを求められる表情表出であるのに対し、嫌悪はそのような反応を求めない表情表出である。これらの2表情間の取り違えは、過剰な否定的反応とも結びつく社会的に適切でない反応とも関連が示唆されることから、社会的行動障害との関連が示唆される。逆に、これらは薬剤の作用機序を解明することで、自閉スペクトラム症の社会的行動障害の基盤を明らかにし得ることを示唆することから、表情認知を中間表現型として、さらなる検討を進めることの妥当性を示していると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
診断、評価体制の整備とともに、社会的認知に関連したデータを解析し、表情認知を中間表現型とする研究遂行の妥当性を示唆する研究成果を得ることに成功した。今後は、本姓かをまとめるとともに、この結果に基づく課題作成、サンプリングをボトムアップに遂行することが可能である。研究年度の途中で、研究分担者の1名が異動し、研究実施体制の変更を余儀なくされたが、平成30年4月1日より後任の研究者の1名を追加することで研究遂行体制は強化される。
今年度までの研究成果では、サンプルサイズの不足から、表情認知障害が有効な中間表現型候補であることは示唆されたものの、社会的行動障害との関連性が明らかにし得なかった。今後の検討では、怒りと嫌悪に着目したより詳細な検査バッテリーの開発を進めるとともに、さらにサンプルサイズを増した検討を行う予定である。他方では、薬物療法に対する治療反応性の観点から、その生物学的基盤を明確にする方向性で研究を進める予定であり、ゲノム情報を含めた検討も視野に入れる。
本年度に視線測定装置の購入を予定していたが、臨床試験の研究参加者を対象にした研究においては参加者への負荷の軽減と簡便性を重んじ、現有機器を用いた課題遂行の方が適切であると判断したことから、本年度の購入を見送った。しかしながら、現有機器においては、精度の高い測定は困難である。そのため、次年度において同機器を購入し、本年度の研究成果をもとに設定した課題を作成し、データサンプリングを行う予定である。
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