研究課題
本年度は,3つの方向で研究を進めた.1つは,今までのデータを整理し,論文として報告したことである.これは,調査時点において,岡山県下の精神科病院を対象として,継続的に非経口的な栄養摂取を受けている患者を調査した研究である.168名の患者が非経口的な栄養摂取(胃瘻や経鼻胃管,経静脈的高カロリー輸液)を受けていた.長期生存と関連している因子が幾つか明らかとなった.まず,経鼻胃管や経静脈的高カロリー輸液と比較すると,胃瘻を受けている患者で長期生存が多く認められた.また,認知症疾患と比較すると精神疾患の患者では,長期生存例がより多かった.さらに,長期生存例のほうが,褥瘡が少ないことも明らかとなった.以上より,原因疾患や栄養摂取の方法,栄養状態が長期生存には重要なことを報告した.次に,2つ目として,後ろ向きカルテ調査も実施している.認知症患者や精神疾患患者において,非経口的な栄養摂取を受けた群と受けなかった群で,生命予後に差があるかどうかを調査するための研究である.と同時に,経管栄養を受けた群において,経管栄養の開始前後で,発熱や肺炎,抗生物質の使用頻度などが,どう変化したかを明らかにすることを目指している.興味深い結果が得られつつあり,平成29年度には公表予定である.さらに,3つ目として,認知症患者や精神疾患患者における非経口的な栄養摂取に関する前向き研究を開始しつつある.岡山県内の精神科病院を訪問し,研究の説明を行っている.
2: おおむね順調に進展している
初年度から,研究成果を論文として公けにすることが出来た.これは本研究費を得て,今までのデータを纏めることができ,論文化が可能となったものである.報告した内容は,岡山県下の精神科病院を対象として行われた横断的な調査に基づいている.調査時点において,非経口的な栄養摂取を受けている患者全例を調査対象とした.ロジスティック回帰分析により,非経口的な栄養摂取による長期生存には,胃瘻・精神疾患・褥瘡なし等と関連していることが明らかとなった.次に,非経口的な栄養摂取を受けた,あるいは受けなかった患者の予後を比較調査することを目的として,後ろ向きカルテ調査も実施した.たいへん興味深い結果を得ており,平成29年度には一部を公表予定である.また,前向き研究についても準備を進めている.
初年度は,後ろ向きカルテ調査を実施した.今後は,前向き研究の開始に向けての準備を進めていく.平成29年度は,この前向き研究を順調に進めていくことが出来るよう,関係協力機関との連絡を密にし,連携を取りながら,研究を進めていきたい.また,今までに行われた横断研究に関する検討も進め,新たな視点からの発表を行っていきたいと考えている.
平成28年度は,前向き研究の開始に向けての準備に多くを費やしたため使用額は少なかった.
平成29年度は,前向き研究を開始しており,連絡業務やデータ収集を行う方を雇用する予定である.データ管理や入力を実施できる人を新たに雇用する予定であり,繰り越した金額も含めて予算を組んでいる.また,関連する書籍や文献入手のための予算や,学会発表・論文投稿も予定しており,そのための費用や雑費も予算に含めている.
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Dementia and Geriatric Cognitive Disorders Extra
巻: 6 ページ: 477-485
10.1159/000448242
老年精神医学雑誌
巻: 27 ページ: 67-74