研究課題
本年度も,英語論文を2つ公表するなど,大きな成果を得ることが出来た.まずは,後ろ向きカルテ調査について報告する.調査に協力してくれた精神科病院(岡山県内)を対象として,経管栄養を開始した群と経管栄養を使用しなかった群で比較検討を行った.大きく分けて2つの調査を実施した.まずは,生命予後を調査した.3年間で185名が対象となり,そのうち経鼻栄養を使用した群が150名,使用しなかった群が35名であった.対象者の疾患は,アルツハイマー型認知症が78名,統合失調症が44名,血管性認知症が30名であった.生存期間の中央値を調べると,経管栄養使用群では711日,経管栄養非使用群では61日と顕著な有意差が認められた.対象者を認知症患者に限定しても,結果は同様であり,使用群で695日,非使用群で75日と同様の結果であった.経管栄養使用群のなかで,胃瘻群と経鼻胃管群に分けて比較した処,全体では両群の生存期間に有意差が認められた.後ろ向きカルテ調査の第2として,進行した認知症患者において,経管栄養開始前後における肺炎や発熱,抗生剤使用の頻度を比較した.詳細なカルテ調査が必要となるため,これは特定の1年間を調査期間とした.その1年間で経管栄養を開始した患者数が46名,全員はFAST6e以上の進行した認知症患者であった.経管栄養の開始前後で,肺炎・発熱・抗生剤使用の頻度を比較すると,肺炎および抗生剤使用の頻度は使用後に有意に低下していた.なお,経管栄養非使用群についても,非使用の決定前後で同様の比較を行ったが,肺炎や抗生剤使用の有意な低下は認められなかった.上記の後ろ向きカルテ調査とは別に,認知症患者や精神疾患患者における非経口的な栄養摂取に関する前向き研究を開始した.3年間の調査を予定しており,現在,継続中である.
2: おおむね順調に進展している
昨年度(初年度)には英語の論文を1つ,本年度は英語の論文を2つ,研究成果として公けにすることが出来た.これは本研究費を得て,今までのデータを纏めることができ,論文化が可能となったものである.3つの論文で報告した内容は,岡山県下の精神科病院を対象として実施された調査に基づいている.1つ目の研究により,経管栄養による長期生存には,胃瘻(>経鼻胃管),精神疾患(>認知症),褥瘡の無いことが関連していることが判明した.第2の調査では,進行した認知症患者で,経管栄養を使用した群と使用しなかった群で,生命予後を比較検討し,非使用群と比較すると使用群で,有意に長期の生命予後が認められていた.第3の調査で,進行した認知症患者でも,経管栄養開始により,肺炎や抗生剤使用の頻度が有意に低下することを明らかにした.これらの結果は,世界的に見ても非常に重要な結果であり,認知症者における経管栄養の問題を検討する際には,必ず引用させる文献になったと考えている.また,平成29年から前向き調査も開始していることも含め,順調に進展していると評価した.
平成30年度は,平成29年より開始した前向き研究を順調に進めていくことが出来るよう,関係協力機関との連絡を密にし,連携を取りながら,研究を進めていきたい.調査内容は多岐に亘るため,専門の調査員を大学から派遣する可能性が高い.人員を確保し,データ収集に努めたい.また,現在までに調査結果について,特に精神疾患に焦点を当てて,再検討を行いたい.
(理由)本年度は,ほぼ予定通りの額を使用したが,前向き研究を開始するための準備に多くを費やしたため,幾らかの額が次年度に繰り越しとなった.次年度は,前向き調査の継続および,今までのデータ整理・入力などに使用する予定である.(使用計画)平成30年度は,前向き研究の継続を予定している.連絡業務やテータ収集(心理検査なども含めて)を担当する人を雇用予定である.データ管理やデータ入力を実施できる人も雇用予定であり,繰り越した金額を含めて予算を組んでいる.また,関連する書籍や文献入手のための予算や,学会発表・論文投稿も予定しており,そのための費用や雑費も予算に含めている.
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Psychogeriatrics
巻: 17 ページ: 453-459
10.1111/psyg.12274
BMC Geriatrics
巻: 17 ページ: 267
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