期間全体を通じて実施した研究の成果について,まず記載し,その後,最終年度である平成30年度の成果について触れる.本事業では,全体として3つの方向で研究を進めた.第1の研究では,本研究費を得て,今までのデータを纏めることができ,論文化が可能となった.その内容は,岡山県下の精神科病院を対象として行われた横断調査に依る.非経口的な栄養摂取を受けている患者全例を調査対象とした.ロジスティック回帰分析により,経管栄養による長期生存には,経鼻胃管より胃瘻,認知症疾患より精神疾患,また「褥瘡の無いこと」が関連していることが判明した. 第2の研究では,2つの後ろ向きカルテ調査を実施した.後ろ向き調査の1つ目は,精神科病院の入院患者を対象として,特定の3年間で経管栄養を開始した群と使用しなかった群で生命予後を比較した.185名が対象となり,経鼻栄養を使用した群が150名,使用しなかった群が35名であった.生存期間の中央値は,経管栄養使用群では711日,非使用群では61日と顕著な有意差が認められた.後ろ向きカルテ調査の第2としては,進行した認知症患者において,経管栄養開始前後における肺炎や発熱,抗生剤使用の頻度を比較した.特定の1年間で経管栄養を開始した患者数が46名であり,全員がFAST6e以上の進行した認知症患者であった.経管栄養の開始前後で,肺炎・発熱・抗生剤使用の頻度を比較すると,肺炎および抗生剤使用の頻度は使用後に有意に低下していた. さらに,第3の研究として,認知症患者におけるターミナル医療の在り方に関する検討を,文献的にあるいは実践例を対象として実施し,発表・報告した. なお,平成30年度に限ると,3回の学会発表を行うことが出来た.日本老年精神医学会(郡山市,6月)で1報告,日本認知症学会(札幌市,10月)で2報告を行い,本研究の成果全般について発表した.
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