本研究の目的は臓器移植希望者(レシピエント)に対する心理社会的評価のためのガイドラインを作成することであった。そのための予備調査として、国内における現行の心理社会的評価法を整理し、問題の所在を明らかにすることを目的に、国内の主要な移植施設において実施されている心理社会的評価方法と、そこで生じている問題についてフォーカスグループインタビューを実施した。インタビューの内容は、各施設における評価者・評価時期・評価項目・評価方法・評価者が感じている評価上の問題点等である。対象は国内における主だった臓器移植施設においてレシピエントの心理社会的評価に3年以上関与している医療従事者(精神科医、臨床心理士、レシピエント移植コーディネーター、ソーシャルワーカー)である。2018年度末までに、目標施設数を超える心臓移植9施設、腎臓移植14施設、膵臓移植5施設、肝臓移植9施設を対象に実施した。 このインタビュー結果と移植先進諸外国での知見と対比するかたちで、メンタリティや移植事情の異なるわが国独自の課題が焙り出され、わが国の事情に即したガイドライン作成のための有益な資料となった。 2019年度には複数回にわたり、インタビューによって得られた課題について、外部識者(医療倫理の専門家)、移植医、移植経験者、移植に携わっていない精神科医などを含めたワーキンググループメンバーで対応策を検討し、その結果を元にガイドラインを編纂しており、完成は2020年8月の予定である。 本ガイドラインによって①施設を超えて一定のコンセンサスを得た評価を行うことが出る、②移植適応基準における心理社会的・精神医学的評価の信頼性を担保できる、③予後に悪影響を及ぼす要因を特定し、介入に繋ぐことが出来るため、移植患者の予後の改善、QOLの向上に寄与できる、④脳死・心臓死下臓器提供への国民の理解促進にも寄与しうる等が期待できる。
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