研究実績の概要 |
てんかん患者の社会参加を促進する上で認知機能障害・高次脳機能障害を適切に評価することは重要課題である。てんかん患者における主観的な無能力感、生活上の困難さや社会適応上の問題がMMSE,WAIS-Ⅲ,WMS-Rなどの標準的に行われている知能検査では十分に評価しきれていないことは臨床的にしばしば遭遇する事実であり、本研究の目的は従来の高次脳機能検査の概念を超えた心理検査・精神医学的検査を多面的に組み合わせた心理バッテリーからてんかん患者の実生活上困難となる社会認知的問題を定性的・定量的に具体性をもって測定する方法を開発することにある。 外来を受診したてんかん患者および入院患者のうち同意を得られた患者から得られたデータをもとに生活の質にかかわる主観的な自己評価項目(①QOL②心理・精神状態③表現④理解⑤正当な評価⑥過大な評価⑦発作による制約⑧薬による制約)に関するスケールとAQ,CAARS,BDI-II,およびWAIS-IIIの項目、および患者の発作状態(発作頻度、罹患歴、抗てんかん薬の数)との関係性を検証した。統計解析の対象は集計の完了した171名のうち自己評価スケールとAQ,CAAR,BDI-IIを施行した131例を対象とした。BDI-II,AQ, CAARSの各項目は①-⑧の主観的評価の多くと有意な相関を示した、一方で発作頻度、抗てんかん薬の数、罹患歴などの発作状態は「発作頻度と⑦発作による制約」以外では有意な相関を示さなかった。またWAIS-III得点は①-⑧の主観的評価のいずれの項目とも有意な相関を示さなかった。てんかん患者ではAQ,BDI-II,CAARSといった精神・行動の評価スケールの得点は発作状態以上に主観的な自己評価と幅広く相関し、これらの評価は意義があると考えられた。
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