本研究では、冠血流予備能の検査を指標にした冠動脈疾患の有効な治療法を検証するために、以下に挙げる3つの課題を明らかにしようとした。 1.非侵襲的冠血流予備能の測定法の確立:申請者らは、15O-標識水 心臓PET/CTを用いて冠血流予備能(coronary risk factor: CFR)を測定するための撮影プロトコールおよび解析プログラムを成功させた。登録症例数77例中76例でCFR算出に成功した。 2.生活習慣病是正のCFRに対する効果の検討:冠危険因子により、冠微小血管での負荷時血管拡張機能が障害され、結果として、CFRが低下することが知られている。本目的を検証するために47例の141血管から血行再建術がされなかった83血管を対象に冠血流予備能を計測した。冠危険因子の遵守率は血行再建術前71%と比較的よかったため6ヶ月後でも同様であった。従って、CFRは変化はなかった。 3.冠血行再建術(経皮的冠動脈形成術 [PCI]あるいは冠動脈バイパス術[CABG])のCFRに対する効果の検討:本目的では、冠血行再建術のCFRに対する効果に注目した。72名の冠動脈疾患患者において、28例にPCI、20例にCABGが施行された。前者ではCFRは2.03(1.70-2.78)から改善がなかったが(p=0.66)、後者では、1.67(1.13-1.93)から1.91(1.60-2.36)(P<0.001)と有意に改善した。術前のCFRが2.0未満と低い群(n=40)に注目すると、両群で冠血行再建のCFRに対する効果が確認できた。さらに、SYNTAXスコアが23以上と高い群(n=22)に注目しても同様にCFRの有意な改善が得られた。上記の本研究からCFRが2.0未満と低値あるいはSYNTAXスコア23以上であると冠血行再建術のCFRに対する効果が高いことを明らかとなった。
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