研究課題
呼吸過程を撮影した胸部X線動画像には,肺換気および血流動態が肺野濃度(=画素値)の変化としてあらわれている.この変化は,単位容積あたりの肺血管・気管支密度および血液量の変化に起因する.すなわち,肺野濃度(=画素値)変化の理解は,肺の動的変化の理解だけでなく,肺機能の理解にまでおよぶ重要な評価項目である.本研究では,肺の動的変化として,肺野内局所のテクスチャ変化,移動ベクトル,画素値の変化率に注目した.これらの動的変化から肺機能評価を可能にする画像解析技術の開発に取り組んだ.本学附属病院で稼動しているX線動画撮影システム(試作機)を用いて,2015年12月~2019年12月までに肺癌,間質性肺炎,肺線維症,喘息,COPDなどの約550症例のX線動画像を取得した.取得した胸部X線動画像から骨陰影を抑制したX線動画像を作成し,肺野領域を対象に,肺野内テクスチャ変化,移動ベクトル,画素値の変化量や変化率,標準偏差等を解析し,正常組織の計測結果と比較した.さらに,他の検査結果(肺シンチグラフィ,CT,肺機能検査)や臨床所見をもとに計測した動的変化について考察した.その結果,肺シンチグラフィで得られたRIカウント率と画素値の変化率との間に高い相関を確認できた(全肺r=0.81, 上肺野r=0.46, 中肺野r=0.67, 下肺野r=0.74).画素値の変化率を指標とした診断支援システムを開発し,当該システムを用いることで,肺シンチグラフィにて確認される局所的な肺機能障害を高い感度で検出できることを確認した.一方,肺野内局所のテクスチャ変化ならびに移動ベクトルは,肺機能障害の検出のための指標として有効性は確認できなかった.本研究課題で得られた成果をもとに,胸部X線動画像をもちいた肺機能診断の実現可能性を引き続き検討する必要がある.
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