研究実績の概要 |
我々は乳癌の術前化学療法の臨床研究において、時間分解拡散光スペクトロスコピーイメージング装置(TRS)を用いて、治療前、1-3サイクル後に腫瘍ヘモグロビン濃度(tHb,μM)を計測し、その減少率が大きい治療反応群は非反応群と比較して、病理学的完全奏効率が高いことを報告した。 腫瘍では正常組織に比べて水分量 (Water,%)が多く、脂肪量(Lipid,%)が低いなど特徴を有し、WaterとLipidは腫瘍間質の浮腫、脂肪代謝を計測する上で重要な指標になる可能性がある。昨年度、ブロードバンドなセンシング技術を採用して光の波長を広げ、マルチパラメトリックな組織代謝パラメータの測定装置(以下TRS-21-6W)の開発が終了し、パイロット研究を実施した。 (方法)原発性乳癌患者10名を登録した。腫瘍直上と正常乳腺の組織代謝パラメータを測定し、術前化学療法の開始前および早期(投与数日後、1-3サイクル終了後)に、腫瘍tHb、組織酸素飽和濃度(StO2,%)、Water、Lipidの 4項目のマルチパラメータを同時測定した。統計解析はt-検定で行った。(結果)解析可能な症例は7例であった。治療前の腫瘍直上と対側正常乳房の値は、tHb (平均28.5μM±62.1 vs. 18.0μM±39.5, p =0.01), StO2 (平均76.5%±30.3 vs. 82.4%±8.3, p =0.02), Water (平均30.3%±81.3 vs. 16.4%±21.6, p = 0.003), Lipid (平均55.0%±30.5 vs. 66.2%±19.7, p = 0.001)であった。治療開始後2day,1week,および1-3サイクル後のパラメータ変動をFigureに示した。 (結語)化学療法後、腫瘍tHbとWaterは低下する一方、Lipidは上昇する傾向にあった。TRS-21-6Wを用いた光学的生体機能の多面的計測により腫瘍の微小環境や薬物の治療効果の特性を数値化・可視化できるものと考える。
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