研究課題
昨年度より導入された、より恣意性の低い定量的な脊髄の解析手法である、spinal cord toolboxを用いて、脊髄の各種MRI画像の定量値に関するより客観的な解析手法の構築およびその妥当性の検討、実際の症例における初期的な応用を行った。上記spinal cord toolboxの導入後の利用に関しては、2017年1月より本大学に滞在中の、カナダ・モントリオール工科大学のJulien先生(tool boxの製作者)と直接検討を行い、その利用方法、有用性や妥当性に関する情報収集を行うことが可能であった。当院における脊髄脊椎の撮像手法の検討としては、昨年より軸索のイメージングとしては特に脳と異なる解剖学的な特殊性を考慮した磁化率アーチファクトの低さや信号雑音比の確保を考慮したうえで、Simultaneous Multi-Slice(SMS) Readout Segmentation of Long Variable Echo-trains(RESOLVE)EPIを用いて、一部実際の症例およびボランティアにて撮像を行った。また、その他の撮像方法として、撮像視野を絞って撮像する手法の検討も行った。さらに、髄鞘のイメージングとしては、磁化率移動を用いた撮像方法を導入し、同様に撮像パラメーターの検討および至適化を行い、実際に撮像の検討を行った。また、いずれのデータも歪み補正や後処理としての定量的マップの構築が必要であるが、それに関しては先行論文を参照の上、Matlabなどの数理計算ソフトを用いて構築、改良を行った。また、実際に取得した正常および疾患群のMRIデータより、上記SMS RESOLVE EPIを用いた軸索の定量的変化および磁化率移動を用いた髄鞘の定量的変化を頚椎症患者群におおて検討して、その結果を、2017年4月の国際磁気共鳴医学会にて、ポスター発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
解析手法として、複数の定量化イメージングが可能となった結果、その撮像および解析における条件の至適化や、正常値における妥当性の検討やそれぞれの手法における比較検討に若干時間がかかっているものの、総じてデータの解析そのものは順調に進行しているといえる。また、他の撮像手法として、軸索のイメージングとして現状用いているSimultaneous Multi-Slice(SMS) Readout Segmentation of Long Variable Echo-trains(RESOLVE)EPIは明らかに従来の脊髄の拡散強調像より良好な画質であり、頚椎症患者群における検討の結果は、英文論文として報告することが可能であった。(Hori, M et al, Application of Quantitative Microstructural MR Imaging with Atlas-based Analysis for the Spinal Cord in Cervical Spondylotic Myelopathy. Sci Rep. 2018 Mar26;8(1):5213.)しかしながら、現状でも常に安定した完全な画質とは言い難く、軸索の定量値のばらつきを症例によっては認めうる。従って、上記のような先端技術の使用を前提とし、別の撮像方法を試験的に検討し、その撮像条件のより至適な条件、あるいは新たな画像補正や解析の手法を模索する必要はいまだにある。また、脊髄の疾患群における臨床におけるデータに関しては、特に多発性硬化症患者群におけるデータの収集は、安定して推移している。しかし、その他の個々の疾患(脊髄腫瘍や血管病変など)におけるデータ数が、統計学的処理には現状でも実数が不十分なものもあり、さらに引き続き今後もデータ収集が必要であると考える。
本研究の遂行に関して、昨年同様基本的な方針に大きな変更はなく、引き続き脊椎脊髄における各種MRIデータの収集を、様々な撮像方法にて、健常ボランティアおよび疾患群にて行う。研究計画当初と最も大きく異なる点は、従来脊髄の画像解析は主に観察者の主観が入りやすい手法が主であったのに対して、spinal cord toolboxのような、比較的客観性の高いといえる解析手法の導入が行われ、かつこの手法自体も深層学習のアルゴリズムを用いて改良がすすみ、より高度な解析が可能となっている点である。従って、このような解析手法に精通することも重要なポイントとなる。また、新たに複数の撮像手法(例、ミエリンイメージ)や解析手法(例、拡散時間の異なるの拡散のデータ解析)が可能となっており、その有用性や独自性を鑑みると、場合によっては従来とは異なるMRIにおけるデータ収集が必要となる場合があり、特に臨床で実現可能なデータ取得時間内で、その有効性、妥当性を検討したうえで、データを取得する撮像方法の変更を考慮する。今までのデータを確認すると現状のデータ収集方法が最善とは言い難い面もあり、さらなる撮像時間短縮やより精度の高い定量値を可能とするようなデータの取得方法および解析手法も検討する必要がある。本研究は、マルチモーダル磁気共鳴イメージングを用いた脊椎脊髄疾患の評価方法の確立が最も重要な点であるが、その研究背景におけるキーとなる考え方は通常行われているMRIでは観察困難な、脊髄脊椎病変内の微細な構造変化の観察や可視化、およびイメージングと臨床指標との相関およびその有用性の検討であり、引き続きデータの取集および解析、統計を遂行する。
引き続き脊椎脊髄のMRIデータの収集を、健常ボランティアおよび病的状態にある場合、で遂行する。このためのデータ収集のためのボランティアや、撮像および解析補助に関する謝金が必要となってくる。また、疾患群におけるMRIデータを、個人情報を保全、匿名化しつつ解析、運用するための機器や記憶媒体に関する費用が必要と思われるさらに、本研究に関する最新の知見、情報交換あるいは成果の発表のための国内外での学会、研究会への参加を予定している。今年度は最終年度であり、成果をできる限り論文、出版できるようにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Spine J
巻: 18 ページ: 268-275
doi: 10.1016/j.spinee.2017.07.007.
Sci Rep
巻: 8 ページ: 5213
doi: 10.1038/s41598-018-23527-8.