研究実績の概要 |
グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であり、記憶や学習機能に重要な役割を果たしている。過剰に放出されたシナプス内グルタミン酸は、神経細胞障害を引き起こし種々の神経疾患の原因と考えられている。しかし、過剰なグルタミン酸が引き起こす脳化学変化は十分に解明されていない。 平成29年度は、リン脂質代謝酵素欠損マウス(Pnpla7変異マウス)の脳代謝の検討を継続した。PNPLA7はリポホスファチジンコリンをグリセロホスホコリンに変換するリゾフォスフォリパーゼであり、内因性のコリン成分を産生する経路の一部である。その欠損マウスに対し、放射線医学総合研究所の7テスラ前臨床MR装置を用いたMRSを施行した。Pnpla7変異マウスの視床でN-acetylaspartate (NAA), creatine (Cr), choline (Cho), glutamate (Glu) 低値、myo-Inositol (mIns) 高値、皮質でNAA, Glu, GABA低値、mIns, Glutamine (Gln) 高値が認められた。PNPLA7は中枢神経において髄鞘形成に寄与し、その欠損は髄鞘低形成に加えて神経細胞障害、Glu-Glnサイクル異常をきたす可能性が考えられた。 また、グルタミン酸毒性が関与する想定されるけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)の脳代謝解析を継続した。臨床的に二相性を呈さず、画像的にも bright tree appeance を認めない急性脳症の中でMRSにて一過性のGlu/Gln高値を呈する一群があることを見出し、Mild encephalopathy associated with excitotoxicity (MEEX) として発表報告した。 グルタミン酸毒性の疾患概念を拡げる新たな知見である。
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