肝がんの放射線療法において、高磁場MRIを利用した治療マージンの可視化は有用な手法と考えられる。 放射線に対する腫瘍の早期反応や、非腫瘍部肝実質における急性放射線傷害をモニターしながら、放射線照射領域を最適化できるためである。私達の先行研究によれば、放射線を照射する前に、超常磁性酸化鉄ナノ粒子によってマクロファージ(肝臓ではクッパー細胞)を標識すると、MRI上、治療マージンが可視化される。 本研究では、放射線治療後に、標識マクロファージ由来のMRI信号が、X線照射に対する細胞応答に直接関係して変化することを実証するために、臨床でも利用可能な3テスラ高磁場MRI装置を使用し、細胞ファントムの横緩和速度R2'を調べた。R2'は細胞内SPIO蓄積量と相関するとされる。 SPIO標識後にX線照射されたマクロファージ様細胞では、0から10 Gyの線量範囲において、線量と関連のあるSPIOの沈着とR2'の上昇が確認された。SPIOは、マクロファージ様細胞内のライソゾームに蓄積していた。また、R2'の上昇により、マクロファージ様細胞は、MRI上、低信号(暗く)見えた。 私達の先行前臨床研究では、肝臓における放射線治療マージンが、インビボSPIO造影MRI上、低信号領域として描出されており、本研究結果はこれを説明しうると考えられた。また、放射線照射後のマクロファージ様細胞においてSPIOが蓄積する原因として、ライソゾームにおけるSPIO分解速度の低下が示唆された。化学的に酸性度が低い状態ではSPIOの分解速度は低下するが、本実験において、放射線照射後の細胞内に存在するライソゾームの酸性度は維持されており、観測されたSPIO分解速度の低下の原因を説明できなかった。
|