研究課題/領域番号 |
16K10338
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
伊藤 巧一 弘前大学, 保健学研究科, 教授 (90398579)
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研究分担者 |
中野 学 弘前大学, 保健学研究科, 助教 (10436016)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射線被ばく / 造血幹細胞 / 臍帯血移植 / 組織適合性抗原 |
研究実績の概要 |
本研究では、核関連施設における全身大量放射線被ばく事故に対応できる混合臍帯血移植の確立とその回復機構解明をマウスモデルで検証することを目的とする。臍帯血移植の問題点として「一人の妊婦から得られる細胞数では患者一人の需要を満たせない」ことが挙げられる。この数的限界を克服するのが複数の臍帯血を混ぜ合わせて移植する混合臍帯血移植である。これまでの研究成果として、混合臍帯血移植ではむしろ組織適合性抗原が一致しないアロ臍帯血同士を混合移植することで優位に高い救命効果を伴って放射線暴露個体自身の造血機能回復を誘導できることを見出している。大量放射線被ばく者にとって自己造血機能回復は願うべき治療効果と言える。本年度は、この混合アロ臍帯血移植による自己造血機能回復の機序解明を行った。まず、2種類のアロ臍帯血をインビトロ系で混合培養し、その培養上清ならびに混合培養細胞を回収した。次に、培養上清を致死量放射線照射マウスに投与したところ、非投与マウスに比較して有意な延命効果が見られた。このことは培養上清中に何らかの造血機能回復に関与する液性因子(サイトカイン)の誘導を示唆する。そこで、さらに回収した混合培養細胞のサイトカイン産生を10種のサイトカイン特異的プライマーを用いたRT-PCRで調べたところ、多種類の造血系サイトカインの産生が認められた。これに比較して、2種類のアロ臍帯血のそれぞれの単独培養では培養上清投与による延命効果も、培養細胞による造血系サイトカイン産生も認められなかった。したがってこれらの結果は、混合アロ臍帯血移植ではお互いの細胞同士の競合反応によって多種類の造血系サイトカイン分泌が誘導され、それらサイトカインが放射線暴露個体自身の造血機能の回復に寄与している可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射線被ばくに対して組織適合性抗原が一致しないアロ臍帯血ソースが使用でき、さらに混合アロ臍帯血移植が放射線暴露個体自身の造血機能回復を誘導できることは臨床的にも有用性が高いと判断できる。加えて本年度は、自己造血機能回復の機序の大きな手がかりが掴めたことから次年度の解決すべき研究課題が明確になった。この機序解明は、混合アロ臍帯血移植の有効性を理論的に証明する上で不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
アロ臍帯血を混合培養することで造血系サイトカインが誘導され、その結果、放射線暴露個体自身の造血機能が回復する可能性が示唆されたが、臍帯血中のどの細胞の競合反応が造血系サイトカインの産生に繋がっているか明らかにする必要がある。1つの可能性として、臍帯血中のナチュラルキラー細胞がお互いのアロ抗原認識により活性化し、これを起点に造血系サイトカイン産生が生じていることを推測している。また、これら培養によるインビトロ系での検証に加え、インビボ系での検証を通して自己造血機能回復の機序を明らかにしたい。さらに、混合アロ臍帯血移植後、自己造血機能回復により救命された暴露個体の免疫系が正常に機能しているか検証することもこの移植の有効性をアピールする上で重要である。混合アロ臍帯血移植で救命された暴露個体(マウス)のT細胞機能ならびにB細胞機能をインビボ系で検証する。次年度はこれらの問題解決に順次取り組んでいく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究進捗との兼ね合いから平成28年度配分金全額を使用する必要がなくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度(平成29年度)に物品費として使用する予定である。
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