研究課題
最終年度では、急性放射線障害(ARS)消化管障害に対する治療薬候補の臨床研究をどのように展開できるか、放射線医学総合研究所の高度被ばく医療センターなどと協議した。研究全体として、イスラエルのバイオ企業であるPluristem社が有する胎盤由来間葉系細胞(PLX-R18)の筋肉内投与によるARS消化管障害について、非臨床評価を進めた。ARSモデルマウスの最適化を行い、部分照射モデルにおいて、R18の投与効果が、予備的ではあるが、全生存率、消化管細胞の免疫染色で認められた。公表は2018年の世界薬理学会にてポスター発表を行った。臨床開発の方法について、PMDA、厚労省厚生科学課、原子力規制庁などとも協議したが、米国animal ruleのような緊急使用のための開発パスは日本で最適化することは困難であった。イスラエル、欧州、米国などで安全性確認、骨髄機能回復に関する臨床開発プログラムは進行中であるが、ARS関連のエビデンスは十分ではない。今回公表していた情報により、台湾のバイオ企業製品を使用した共同研究提案が出ている。R18と同様に、すでに臨床薬理試験が完了していることから、ARS適用に向けた臨床でのエビデンス作りの方法、国内協力体制を引き続き、議論している。現在、放射線核種の体外排出促進剤のみが、解毒剤として利用可能である。放射線による細胞ダメージを防止、回復させるエビデンスを持つ薬剤は、未だに存在しない。高度の放射線被ばく事故などの事態に備えて、薬剤の緊急使用の妥当性、エビデンス作りに引き続き、開発企業と連携して進めていくことにしている。