本研究の目的は筋肉への放射線影響を明らかにすることである。成熟した筋肉は放射線に比較的強い組織であるが、筋肉の元になる細胞(筋肉幹細胞=筋衛星細胞)は放射線に弱く、放射線の被ばくによって筋肉が形成される過程は阻害される。近年の研究で筋肉のタイプと代謝の関係、筋肉からのサイトカイン分泌が明らかになり、この観点からも筋肉への放射線影響を明らかにしようと試みた。 今年度は、筋衛星細胞の放射線感受性を再評価するために、筋衛星細胞が、体内では細胞周期の停止した状態にあることを反映させることを試みた。細胞分裂の速さは放射線の感受性に影響を与えるため、結果次第ではこれまでの仮説が覆る可能性も考えられたためである。細胞浮遊化試薬を培地に混合し、細胞接着阻害による細胞周期の停止を試みたが、細胞接着力が高く実現できなかった。 マイオカイン分泌への放射線影響に関しては、繰り返し実験数を増やし、線量を8 Gyまで上げ、mRNAを用いた実験結果の精度を高めた。ELISAはセットアップまで終了したが、放射線影響を評価するまでには至らなかった。構成性の分泌も、TNF-α刺激による分泌に対しても放射線の影響は小さく、CCL8 mRNA以外の発言変化は確認されなかった。 X線照射による筋肉幹細胞の遊走阻害における増殖因子影響のメカニズムを明らかにするため、HGFのレセプターc-Met、細胞遊走に関連するレセプターCXCR4、シグナル伝達経路中レセプター付近でのシグナル伝達に関わるGab-1タンパク質、FGF-2レセプター、遺伝子発現の検討した結果、HGFの場合にはこれらの遺伝子に大きな変動がみられなかったが、FGF2の場合には放射線照射による発現上昇がみられた。X線照射によるレセプター発現が原因ではなく、下流のシグナル伝達が阻害されていると思われた。
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