研究課題/領域番号 |
16K10373
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
渡辺 智 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線高度利用施設部, 主幹研究員(定常) (40354964)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アスタチン-211 / 照射法 / 蒸着 / ターゲット / 分離 |
研究実績の概要 |
At-211(半減期7.214時間)は、がん治療に適したα線(平均6.79 MeV、組織内飛程55-70 μm)を放出し、その線エネルギー付与(LET)は平均97 keV/μmと高いことから、内用放射線治療への適用が期待されている。そこで、我々は、At-211を用いた内用放射線治療の開発の第一歩として、高崎量子応用研究所に設置されているTIARA-AVFサイクロトロンを用いたAt-211の製造法の開発を始めた。At-211 の生成には209Bi(α,2n)反応を用い、入射エネルギー28.1 MeV のαビームをBi板に照射してAt-211を生成することとした。ターゲットであるBiの融点は271.4℃と低いことから、ビーム電流値とターゲットの健全性との関係を調べるため、電流値を徐々に上昇させて照射を行った結果、3.5 μAでBi板が溶融し健全性が保てなくなることが分かった。内用放射線治療に必要な放射能量を製造するためには、少なくとも20 μAが必要である。そこで、本研究課題では、20 μAの電流値でもBiターゲットの溶融が起こらない新規ターゲットシステムを検討するとともに、ターゲットからのAt-211の分離法の開発を行うこととした。 平成28年度は、At-211の大量製造法の開発のための溶融が起こらない新規のBiターゲットの開発の第一歩として、蒸着法を用いたBiの薄膜の生成を検討した。具体的には、ターゲットの原料であるBi金属を粉末化し、蒸着ボートに充てんした後、真空蒸着装置で金属基板に蒸着を行った。この時、蒸着ボートへの原料の充てん重量や蒸着時の電流値等を検討し、効率的に蒸着可能なパラメーターを決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、At-211の大量製造法の開発のための溶融が起こらない新規のBiターゲットの開発の第一歩として、蒸着法を用いたBiの薄膜の生成を検討した。今後は、照射法について検討を進める予定であり、現在まで、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、At-211の大量製造法の開発のための溶融が起こらない新規の照射法の開発として、ターゲットホルダーの開発を行う。我々は、固体のターゲットを使用した核種として、Mn-52、Fe-52、Zn-62、Cu-64、Cu-67、Br-76、Br-77、Cd-105、Cd-107、Cs-127、Cs-129、Re-186等の製造を行い、医療への応用研究や植物の動態解析研究に用いてきた。これら核種の生成には、我々が開発した固体ターゲット用の照射法を使用しており、At-211の製造においても、当初、同じ照射法を用いて開発を進めた。ターゲットとしては、10mmx10mmx0.25mm厚の金属Bi板を用い、当施設に設置されているサイクロトロンからのビームに対して垂直(90°)にターゲットを設置してAt-211を生成した。結果として、3.5μAのビーム電流値でターゲットが溶融してしまうことが判明した。そこで、平成29年度は20μA程度の電流値でもターゲットの健全性を保つことができる照射法の開発を目指し、ターゲットを45°程度に傾斜させて、ビームによる熱除去効率を向上させることが可能なターゲットホルダーの設計及び実際の製作を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の進捗状況において、多少の遅れがあるため、当初実験に使用すると考えていた、実験器具及び試薬についての購入をH28年度に執行しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額としては、平成28年度に行われなかった実験のための実験機器及び試薬の購入に用いる。また、平成29年度については、当初の計画通り、実験機器や試薬の購入、旅費、謝金に用いる予定である。
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