研究課題/領域番号 |
16K10380
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
Nam JinMin 北海道大学, 国際連携研究教育局, 講師 (60414132)
|
研究分担者 |
森岡 裕香 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 講師 (00360264)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 放射線 / 癌浸潤 / 小胞輸送 |
研究実績の概要 |
本研究では、放射線照射後の浸潤癌再発を防ぐための知見を得る事を目的とし、照射後の細胞外微小環境の変化に関わる小胞輸送制御の分子メカニズムの解析を行っている。 乳癌細胞への放射線照射後の浸潤癌再発に関連して、MDA-MB-231乳癌細胞株の浸潤能亢進モデルを用いて実験をデザインし、研究を進めてきている。前年度から引き続き、放射線照射後の浸潤能獲得に関連する分子として、インテグリンを標的としてきている。alpha5-インテグリンやalphav-インテグリンに結合できる増感剤として、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)ペプチドを融合したRGD修飾金ナノコロイドを、放射線照射後の細胞に処理した。RGD修飾金ナノコロイドの増感剤は、インテグリンと結合後、エンドサイトーシス過程によって細胞内に取り込まれ、放射線に対する増感効果が認められた。また、インテグリン標的増感剤の癌細胞内での蓄積は、放射線により誘導されるMDA-MB-231細胞の浸潤能を抑制することをマトリゲルインベージョン実験により確認した。さらに、RGD修飾金ナノコロイドは、細胞内の小胞において、alpha5-インテグリンやalphav-インテグリンと共局在しており、特に、後期エンドソームやリソソームへの蓄積を共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。これらの結果から、インテグリン関連の細胞内小胞輸送が放射線照射後の悪性度の増加に関与する可能性が示唆された。 今後は、放射線照射後の小胞輸送を介した細胞外微小環境の変化に伴う、細胞の応答に関して詳細な分子メカニズムの解析と動物実験での検討を進める予定としている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、インテグリンを標的にした増感剤(RGD修飾金ナノコロイド)を用いて、放射線照射後の乳癌細胞の浸潤能亢進に小胞輸送が関与することを示唆する結果が得られた。RGD修飾金ナノコロイドの増感剤は、インテグリンと結合後、エンドサイトーシス過程によって細胞内に取り込まれ細胞内に蓄積されることを、免疫染色による細胞内小胞のマーカー分子との共局在を調べることで確認された。また、細胞死を調べる事で、放射線に対する増感効果が認められた。放射線照射により微小環境の変化をもたらす小胞輸送の分子メカニズム解析にも着手しており、関連分子も候補が絞れてきているため、おおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
放射線照射後の小胞輸送に関わる分子の特定と、詳細な分子メカニズムの解析によって、照射後の小胞輸送を介した細胞外微小環境の変化に関する解析を進める。小胞輸送に関連する分子を安定的にノックダウンした細胞株を作成し、マトリゲルインベージョン実験、3次元細胞培養による形態確認、エンドサイトーシス・エキソサイトーシス実験、活性酸素の測定を進める。また、フローサイトメトリーによる細胞表面タンパク質の定量などをによって、放射線照射による細胞表面タンパク質への影響を検討する。放射線照射後の小胞輸送に関連した細胞内での分子メカニズムの解析のために、免疫沈降やタンパク質結合実験などの生化学的手法によって、結合分子の特定と詳細な機序を検証する。さらに、これまでのマウスを用いた予備実験より得られた、放射線照射の線量や回数などの条件に基づいて、マウス実験を遂行する。マウス実験では、腫瘍の大きさの計測に加え、IVISイメージングシステムを用いて、ルシフェラーゼ発光による癌の微小転移を検出し計測する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、マウス実験の条件検討の段階で、予定より匹数を減らす事ができたため残額が生じた。残額は、次年度の消耗品(キット類やディスポーザブル製品)を補充する事により、研究の加速に役立てる。
|