研究課題/領域番号 |
16K10396
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
森田 明典 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 教授 (90334234)
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研究分担者 |
青木 伸 東京理科大学, 薬学部生命創薬科学科, 教授 (00222472)
王 冰 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線影響研究部, チームリーダー(定常) (10300914)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | p53制御剤 / 放射線防護剤 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
平成28年度も、防護活性評価を進めていた二座配位性の亜鉛キレート化剤のうち、p53の放射線抵抗性機能を高める5-クロロ-8-キノリノール(5CHQ)の作用機構解析に注力した。5CHQは、細胞の放射線抵抗性に関わるp53標的遺伝子CDKN1A(遺伝子産物p21)の転写を亢進させ、アポトーシスを促進するp53標的遺伝子BBC3(遺伝子産物 PUMA)を抑制する転写調節作用を示す。p21誘導を亢進させるその薬効は、p53の抗細胞死活性を高めるシード化合物として最適と考えられた。マウスを用いた放射線照射試験の結果、5CHQの線量減少率DRF(dose reduction factor)は、骨髄死相当線量の全身照射試験で1.2、腸死相当線量の腹部照射試験で1.3と、新規の放射線防護剤シードとして良好な値を示した。5CHQは、p53分子内の亜鉛イオン(II)に対し、1位の窒素と8位の水酸基を介して錯体を形成すると考えられているが、実際にキレート錯体形成における必要性は明らかにされていなかった。今回、我々は5CHQの8位水酸基の必要性を示すため、5CHQの8位水酸基をメチル化したAS-3(5-chloro-8-methoxyquinoline)と5CHQ活性の比較を行った。また、ATM-p53経路を活性化することで放射線防護効果を発揮するとされるが、キレート活性に必要な水酸基を有さないChloroquineの活性評価も併せて行った。これらの化合物の細胞死抑制効果を検討した結果、5CHQはChloroquineやAS-3に比べ、高い細胞死抑制効果を発揮した。これらの結果は、5CHQによる放射線細胞死抑制効果において8位水酸基が必須であること示しており、p53の亜鉛イオン結合部位と二座亜鉛(Ⅱ)キレート錯体を形成する活性が必要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、放射線防護活性が見出された複数の化合物を親化合物として十数種の派生化合物の活性評価を実施したが、親化合物を上回る防護活性を示す化合物は得られなかった。また、5CHQの毒性低減や水溶性向上のために合成した糖付加体は全て防護活性を失われていた。しかしながら、これらの結果は、キノリノール誘導体への適切な置換基改変を進める上で有用な情報である。また、5CHQと放射線の併用による腫瘍治癒モデルの開発に向け、最大耐量試験や反復投与試験などの基礎データの収集に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
キノリノール誘導体については、今後は微細な改変を加えた化合物の活性評価も進める。また、バナデートの有機金属錯体化による低毒性化にも新たに取り組む。その他新規候補化合物も順次検討していく方針である。有望化合物については、動物モデルによる検証も積極的に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿論文の改訂が要求され、論文掲載費用として確保していた費用を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
改訂論文が受理され次第、論文掲載費用として確保していた費用にて支払いを行う予定である。
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