研究課題/領域番号 |
16K10405
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
関根 広 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (40187852)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射線治療 / 分割照射 / 癌の増殖 / ビッグバンモデル / 放射線感受性 / 線量生残率関係 / 直線二次モデル |
研究実績の概要 |
1個の癌細胞が発生して増殖するとき、発生の初期にしばしば突然変異を繰り返し、遺伝子配列の異なる癌のクローンが形成されることが示されてきた。この結果、異なる性質をもつクローンが生じる可能性があり、薬剤や放射線治療の効果が不均一になる一因と考えられる。本研究では、培養細胞として実験に用いてきた放射線感受性の異なる7種類の細胞の放射線感受性が異なるクローンランダムに付与されて増殖するビッグバンモデルをシミュレーションした。1個の癌細胞が発生してビッグバンモデルに従い700日増殖したところで、60Gy/30回/6週間の分割照射を行い、癌細胞の生残率は一般化直線二次モデルに従うと仮定して照射後120日での各クローンの残存腫瘍細胞数を求めた。全てのクローンで残存細胞数が1未満の場合は局所制御が得られたことになる。合計500個の腫瘍を発生させて同様の解析を行った。その結果、発生後700日での腫瘍細胞が多いほど局所制御率が低いことを示すことができた。すなわち、腫瘍細胞数が105未満をsmall群、105以上かつ106未満をmiddle群、106以上をlarge群としたとき、各々の群での局所制御率はsmall 62.3%、middle 34.4%、large 15.7%であった(p<0.0001 Log Rank Test)。また、制御できる腫瘍とできなかった腫瘍のクローン数では有意差を認めた。すなわち制御できた群のクローン数の中央値は3であり、25パーセンタイルは1で75パーセンタイルは4、制御に失敗した群のクローンの中央値は4で25パーセンタイルは3で75パーセンタイルは6であった。放射線抵抗性のSQ20Bのクローンを含む腫瘍では、腫瘍細胞数が少なくても局所制御が困難なことを示すこともできた。またサブクローンが2個の腫瘍を抽出して解析した結果、放射線抵抗性のSQ20Bが2クローン存在する場合はほぼ制御できないことが分かった(生存率0.001%)。このシミュレーションモデルは制御や再発の要因を比較的によく表していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビッグバンモデルはランダムに突然変異を起こし新たなクローンを発生させて増殖するモデルとしてプログラムかでき、ある大きさになったときに分割照射を開始すると、一般直線二次モデルに従って細胞致死を起こすモデルに導入することができた。 今後は次のステップに進み、最終段階の解析を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
癌の放射線治療では線量と生残率は指数関数的関係があることが実験的に示されてきた。前年度までの研究では癌細胞の発生から700日で臨床的に検出できる腫瘍になると仮定してシミュレーションを行った。しかし、実際には臨床的に検出できる大きさの腫瘍とその細胞数を示せないままシミュレーションを行った。より精度を高めるためには、実際の腫瘍の単位体積に占める腫瘍細胞数を知ることが必要と考える。放射線治療を根治的に行う患者で、事前に広範囲に腫瘍を切除することは不可能なので、すでに外科的に切除された腫瘍の病理スライドを用いて、設定した領域内の腫瘍細胞を測定して、そこから単位体積当たりの腫瘍細胞数を計算することを試みる。多数の標本を用いることと、異なる癌種で測定することを試みる。この結果に基づき、ビッグバンモデルに従い増殖して、設定した腫瘍の大きさまで増殖した腫瘍に対して分割照射を行い、直線2次モデルに従い細胞死すると仮定して、腫瘍の種類、腫瘍サイズに応じた局所制御の有無を検討する。このシミュレーションはランダムに不均一な放射線感受性が付与されるモデルのため、500-1000程度の腫瘍を発生させて大きさ及び放射線感受性の特徴と局所制御率の関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の発表を海外の学術集会で行うために準備して発表の応募をしたが、理論的な学術演題が学術集会の要望と一致せず採択されなかった。そのため、本研究助成費を用いての出張ができず、予定していた費用が次年度に繰り越される結果になった。
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備考 |
本研究では動的シミュレーションがあり、学術論文で発表するよりもwebページでの発表のほうがインパクトがあるため、毎年成果をwebページ上で更新している。
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