研究課題/領域番号 |
16K10409
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
劉 翠華 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, 主任研究員(任非) (00512427)
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研究分担者 |
平山 亮一 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, 主任研究員(定常) (90435701)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 低酸素 / 細胞周期 / 染色体異常 / 酸素効果 / 高LET / 相同組換え頻度 / 重粒子線 / 低酸素応答機構 |
研究実績の概要 |
低酸素は細胞死、細胞増殖などさまざまな生物学的プロセスに関与することが報告されている。放射線生物影響研究は殆ど大気酸素環境下で実験が行われてきた。しかし、生体内がん組織だけではなく、正常組織内の酸素濃度も数%程度であり、生体内を模擬した低酸素環境下でどのような因子が放射線応答に関わっているかを調べることが今後の放射線治療生物学の展開に極めて重要である。本課題ではX線ならびに炭素線照射後の生体応答に対する低酸素環境の役割に関する基礎研究について検討する。 今年度、我々は、性質の異なる細胞を用いて、X線や炭素イオンなどで細胞を照射し、照射した細胞はすぐサブカルチャーして、異なる酸素濃度で細胞を培養し、コロニー形成法で細胞生存率実験を行なった。また異なる酸素濃度で細胞周期を経時的に分析した。 結果:マウスの腎臓からの初代培養細胞では異なる酸素濃度でコロニー形成率が異なる事が分かった。酸素濃度によって生存率曲線は異なることが分かった。大気酸素濃度と比較した結果、1%の低酸素では放射線抵抗性になった。LQモデルを用いてD10値を計算した結果、低LETのX線から80keV/umの炭素線まで1%低酸素で培養した細胞はD10値が明らかに高いことが分かった。ヒト肺由来正常繊維芽細胞(HFL-I)および脳腫瘍細胞(U2OS,A172)では異なる酸素濃度で培養してもPEおよびD10値はほぼ差がなかったが、3%酸素濃度で培養したコロニーサイズは大きかった。細胞周期分布を分析した結果:マウスからの腎臓初代培養細胞は、照射後低酸素で培養した細胞と大気酸素濃度で培養した細胞周期分布は異なることが示唆された。ヒト肺由来正常線維芽細胞と脳腫瘍細胞ではそれほどの差はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
重粒子線は放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療装置(HIMAC)を使用でき、重粒子線の対照実験は同研究所のX線照射装置を利用する事が出来る。HIMAC利用に関しては、既にHIMAC共同研究課題が採択されており、マシンタイム配分を受け炭素線の照射を行うことができた。また低酸素インキュベーターも既に準備してあるので、研究費の使用が許可されてからすぐに実験に着手した。ただ、低酸素インキュベーターは小さく体積が限られていること、低酸素インキュベーターは故障があったため使えない期間があり、計画した実験の一部しかできなかったため、現在までの進歩状況は計画よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
低酸素インキュベーターを確保する前提条件でX線や炭素線照射前後、異なる酸素濃度で細胞を培養し、放射線応答と酸素効果関係を調べる。28年度に得られた結果を基にして大気酸素濃度と低酸素の培養条件で照射された細胞のγH2AX、Chk1、Chk2 のリン酸化状態を解析する。低酸素応答機構を検討することにより、酸素濃度に対する生体応答を検討する。 また細胞照射後、異なる酸素濃度で細胞培養し、染色体修復効率および修復の忠実度(正確さ)を明らかにする。低酸素での染色体修復を考察する。またX線や炭素線照射後にNrf2の発現のダイナミクスについて低酸素との関連性について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
低酸素インキュベーターは小さく体積が限られていること、低酸素インキュベーターは故障があったため使えない期間があり、計画した実験の一部しかできなかったため、必要な試薬、消耗品など購入しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
低酸素インキュベーターを確保する前提条件でX線や炭素線照射前後、異なる酸素濃度で細胞を培養し、放射線応答と酸素効果関係を調べる、今年度できなかった研究を29年度に実施する予定。
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