研究課題
国立がん研究センターに設置されているBNCT用中性子照射装置(2016年2月設置完了予定)は2.5MeVの陽子加速器、リチウムターゲット系および中性子減速材で構成され、この組み合わせでのBNCT用機器が病院に設置されるのは世界初である。このためまず、装置から出力される中性子の物理データおよび生物データを取得することを本研究の第1段階とした。ビーム特性の物理データのうち、中性子のエネルギーのスペクトルの測定は、金線を用いた多重放射化箔法により行う。放射化により前述の金線から放出される特定エネルギーのγ線をHPGe半導体検出器で測定したデータを基にアンフォールディングコードを用いて開始したが、当初想定していた以上に、安定した中性子出力に手間取っている。このため、正式な生物データ取得を開始できておらず、当初予定していたよりもやや研究進捗が遅れている。しかし、平成29年度中には、基本的な一連の生物データ取得を終えることが出来る見込みであり、今年度の進捗の遅れを取り戻すことは可能と考えている。また、当初は臨床試験対象と想定していた悪性黒色腫だけでなく、BPA集積腫瘍全般を対象とした臨床試験を行うことにより、BNCTの開発速度を更に早め、臨床研究開発を促進することを現在検討している。臨床試験対象疾患が広がることを想定して検討を行っているため、本研究の最終的なゴールである、臨床試験プロトコールの準備に関してもやや遅れがみられる。ただし、平成30年度中には、対象を拡大したプロトコールの作成~完成には到達できる見込みである。
3: やや遅れている
当センターに設置されたBNCT用中性子照射装置は世界初の装置であり、安定した中性子の出力と、装置から出力される中性子の物理データおよび生物データの取得は、将来行われる臨床試験の線量評価の基準になるきわめて重要なステップである。上述の通り、平成28年度末時点では、中性子出力が十分に安定できておらず、まずは安定した中性子出力が得られる機器運用条件およびリチウムターゲットの蒸着条件の検討に時間を要している。安定した機器の稼働と正確なデータに基づく臨床試験実施のためにも、このステップを正確に行うことが極めて重要であり、これが安定しないと正確な生物データの取得ができない。更には、正確で安定した装置稼働がないと正確な臨床試験データの取得にも支障をきたすことになるとの認識で、平成28年度中に開始する予定であった生物データの取得作業の大半を、平成29年度に延期することとし、安定した中性子出力条件の設定に注力しているのが、進捗がやや遅れている原因である。また、臨床試験に関しては当初、悪性黒色腫を対象とした臨床試験を行う予定であったが、これ以外に、BPA集積腫瘍全般を対象とした臨床試験によって、BNCTの開発速度を更に早めることを検討しており、これによって臨床試験対象疾患を広げた検討を行っているため、本研究の最終的なゴールである、臨床試験プロトコールの検討についてもやや遅れている。
平成29年度には、安定した中性子出力条件を確定し、正確な中性子のエネルギーのスペクトルの測定を行う。その上で、①培養細胞でのコロニー形成法による生存率、②マウスを用いた中性子線照射後の皮膚放射線障害スコアおよび口腔粘膜障害反応、③マウスに移植した腫瘍片の中性子照射後の増殖遅延効果、を指標として熱外中性子のrelative biological effectiveness (RBE)算出を平成29年度の主な目標とし、これらによって得られたデータに基づいて、臨床試験の基盤となる中性子線量評価法を確立する。中性子出力が安定していない原因が現在ほぼ特定できてきたため、安定して中性子出力ができるようになることを今後確認したうえで生物データ取得を行う。安定した中性子出力を得ることにこれまで注力してきたため、今後のエネルギースペクトル測定と生物データ取得は比較的順調に進められる見込みであり、平成28年度の研究進捗の遅れを取り戻すことは十分に可能である。また、臨床試験に関しては、悪性黒色腫を対象とした試験を行う計画から、BNCTの原理に基づく対象疾患概念として、BPA集積腫瘍を対象とした試験を行うことを現在検討している。このため、従来の臨床試験概念からいえば対象疾患を拡大することになるため、多くの疾患に対するBNCT適応の検討が必要になることから、臨床試験プロトコール作成という観点ではやや遅れが出ている。平成29年度も引き続き、プロトコール作成に向けて継続して適応条件および除外条件の検討を行ってゆく。対象疾患が拡大したことで検討すべき項目が増えることになる一方で、物理データ・生物データ取得を安定して進めてゆくことが出来るようになる見込みであることから、プロトコール作成のための検討に十分な時間を割くことによって、平成28年度の研究進捗の遅れを取り戻して研究を進めてゆくことが可能である。
安定した中性子出力が平成28年度中には十分に得られなかったことにより、中性子のエネルギースペクトル取得および生物データ取得を平成28年度中に行うことが出来なかった。このため、当初予定していたよりも研究費の使用額が減り、次年度使用額が生じた。
当初は平成28年度中に行う予定であった中性子のエネルギースペクトル取得および生物データ取得に次年度使用額を用いる予定である。安定した中性子出力が得られるようになれば、データ取得が順調に進むことになるため、研究進捗の遅れを取り戻すことが可能となる見込みであり、予定通りに研究費を使用することが可能になると考えられる。
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