研究課題
本研究は、三次元癌細胞初代培養系CTOS(Cancer Tissue-Originated Spheroid)法を用いて分化型腺癌の放射線耐性メカニズムを検討することを目的としている。CTOSは分化型腺癌の形質を保持しており、大腸癌CTOSの場合、培養条件の違いによってLGR5やEpHB3などの幹細胞性マーカー遺伝子の発現が変化する。CTOSを用いることで、同一腫瘍内における分化度の違いによる放射線感受性の差を検討することが可能となる。これまでに我々は、9GyのX線照射後のCTOSの再増殖に、個々のCTOS間で大きなheterogeneityが存在することを見出した。CTOSの再増殖はFocalであり、その確率はX線照射時のCTOSの状態によって変化した。我々は分化度の違いが放射線感受性に影響するという仮説を立て、大腸がんの分化状態に影響を与える可能性のある薬剤を用いて放射線感受性への影響を検討した。その結果、Wnt阻害剤が放射線照射後のCTOSの再増殖を抑制することを見出した。つまり、放射線照射後に再増殖する細胞はWntシグナルが高い細胞であることが示唆された。また、HDAC阻害剤であるトリコスタチンAおよびVorinostatによるCTOSのpre-treatmentも9Gy照射後のCTOSの再増殖を完全に抑制した。トリコスタチンAのCTOSの分化状態への影響をマイクロアレイで検討したところ、DNA修復やチェックポイント機能にかかわる遺伝子群に加えて、LGR5やASCL2などの腸管上皮細胞の幹細胞マーカーの遺伝子発現が著しく低下していた。これらのことから、大腸癌CTOSの放射線感受性に各細胞の分化状態が影響する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
HDAC阻害剤の作用点の解析や他のCTOSラインの放射線感受性データなどが集積しつつあり、おおむね順調に進展している。
HDAC阻害剤のマイクロアレイの結果から、HDAC阻害剤はDNA修復関連遺伝子群および腸管上皮細胞の幹細胞遺伝子群の発現を抑制することが判明した。今後、それぞれの責任因子の候補分子を選択し、放射線感受性への影響を検討する。また、genetic markingの系を確立して、再増殖する細胞がclonalであるかどうかを検討する。
(理由)試薬代等を他のグラントから供出したので残額が生じた。(使用計画)研究を進めるうえで必要となった備品の購入にあてる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
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http://www.mc.pref.osaka.jp/laboratory/department/seikagaku/