研究実績の概要 |
本邦の献腎移植件数は増加しつつあるが、献腎移植には少なからず虚血再灌流障害(IRI)による移植臓器の機能発現の遅延(delayed graft function, DGF)が認められる。IRIにより障害された移植腎は拒絶反応を誘発し、移植腎の長期予後を不良にすると考えられている。フラクタルカイン(FKN)は活性化内皮細胞に発現する膜結合型ケモカインで、接着分子としての機能とケモカインとしての細胞遊走誘導能を合わせもつ。免疫細胞に発現するCX3CR1はFKNの受容体であり、FKNとCX3CR1の相互作用は免疫細胞の内皮細胞への接着を引き起こす。本研究では、マウスモデルを用いてIRI関連拒絶反応にFKN-CX3CR1シグナルが重要であることを証明し、さらに抗FKN抗体によりIRI関連拒絶反応を制御できるか検証することを目的とした。これまでに本課題では、冷阻血処置を加えた心移植では、① 移植心の生着率が即時移植群と比較して低下すること、② 移植心の血管内皮でFKN発現が誘導されること、③ 抗FKN抗体により移植心の生着率の低下が改善されることを示した。 平成30年度は、CX3CR1ノックアウト(KO)マウスを用いて、8時間の冷阻血処理を加えて心移植を行った。その結果、CX3CR1 KOマウスの生着率は野生型マウスに比べて有意に改善した。さらに、野生型マウスのCX3CR1陽性単球をCX3CR1 KOマウスに移入した後に、同様に冷阻血処理を加えて心移植を行った。CX3CR1陽性単球移入マウスは同細胞を移入しなかったマウスと比べてグラフトの生着率は低値を示した。以上の結果から、CX3CR1陽性単球が、虚血再潅流障害後の拒絶反応に関与している可能性が示された。引き続き移植心臓組織における侵入CX3CR1陽性細胞の病理組織学的な解析を行い、これまでのデータをまとめて論文化を行う。
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