研究実績の概要 |
我々は、白血病細胞の分化誘導剤コチレニンAを遺伝子発現修飾物質と捉え固形癌細胞の増殖制御に応用出来るか否かを検討してきた。最近、コチレニンAは低濃度の三酸化ヒ素(arsenic trioxide, ATO)によるヒト乳癌細胞(MCF-7, MDA-MB-231)の増殖抑制を顕著に促進することを見出した。 このコチレニンAとATOの併用処理による増殖抑制効果は、抗酸化剤N-acetyl-L-cysteine (NAC)により、部分的に消失することを明らかにした。これらの結果は、コチレニンAと活性酸素(ROS)誘導剤との併用処理が、効果的な抗癌作用を示す可能性を示唆している。 そこで本年度では、活性酸素(ROS)誘導剤として植物由来で癌化学予防剤としても期待されているphenethy isothiocyanate (PEITC)を用い、コチレニンAとの併用効果を難治性固形癌である膵臓癌細胞に対する効果を検討した。コチレニンAとPEITCとの併用処理はヒト膵臓癌細胞MIAPaCa-2およびPANC-1細胞の増殖を相乗的に抑制した。この併用処理の増殖抑制の効果は細胞死誘導によるものであった。コチレニンAはPEITCによるROSの誘導を顕著に増強した。このコチレニンAとPEITCの併用処理による細胞死誘導効果は抗酸化剤NACやTroloxによりほぼ完全に消失し、さらに、フェロトーシス阻害剤ferrostatin-1やliproxstatin-1や鉄キレート剤deferoxamineで顕著に消失した。これらの結果から、この細胞死誘導のメカニズムにはフェロトーシス(non-apoptotic, iron-dependent, oxidative cell death)が関与していることを明らかにした。
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