研究課題/領域番号 |
16K10475
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐藤 大三 順天堂大学, 医学部, 教授 (30205934)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 蛋白異化 / 手術侵襲 / 手術中栄養投与 / 安静時エネルギー消費量 |
研究実績の概要 |
手術侵襲による蛋白や脂質異化、ケトン体生成、低体温、有害なサイトカイン産生など複雑な因子が術後合併症や入院期間に影響している。これに対して申請者は、手術中の栄養投与を「安静時エネルギー消費量(REE)に近い量」に設定することよって、上記変容を回避できることを発見した。以前に食道癌手術で、栄養投与群(全身麻酔中の時間あたりの間接カロリメトリーによる安静時エネルギー消費量に近い栄養投与群:ビーフリードTM60ml/h+プロポフォール)とコントロール群(プロポフォール)では、術中の窒素バランスが栄養投与群でよりプラスであり、麻酔終了後の体温も高く、入院期間を半減する良傾向をみた(通常37日に対して18日)(Daizoh Satoh, Noriko Toda, Ichiro Yamamoto. Effects of intraoperative nutrients administration on energy expenditure during general anesthesia. Nutrition: 45: 37-40; 2018)。しかしながら、本発見の普及にあたり、至適な投与量設定(ブドウ糖、アミノ酸、脂肪)および至適であることを推し量るための生体指標がない。そこで本研究では、「栄養投与基準の構築」と「適正投与による生体指標」を特定し、手術中の栄養投与が術後合併症を予防し、入院期間短縮を実現することを目的とする。 安静時エネルギー消費量に見合ったカロリーの適切な投与量を決定する(対照C群(30例)、アミノ酸とブドウ糖投与GA群(30例))。腹腔鏡下手術麻酔中に栄養投与群(TIVA+ビーフリード)とコントロール群(TIVA)で麻酔中の窒素の出納を研究した本結果と上記の先行予備研究の実施例と合わせて分析し、適切な「投与基準」を設定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブドウ糖は低血糖を抑制とともに異化抑制効果がある。またアミノ酸投与は、体温低下に抑制的に働くと同時に蛋白バランスを正にし、蛋白異化抑制にも効果的である。手術侵襲により、窒素排泄量が増加し、窒素バランスが負となる。このため窒素源としてアミノ酸を補充する。アミノ酸をタンパク質合成に利用するには、同等のエネルギー基質(糖質や脂質)をアミノ酸とともに投与する必要がある。アミノ酸により術中の蛋白異化を抑制しすることで、術後の回復が早くなる可能性がある(入院期間を短くする)。2017年日本麻酔科医学会で、腹腔鏡下手術中の栄養投与は手術中の窒素バランスを正に近づけたことを明らかにした。麻酔中のアミノ酸が体に残ることを意味する。生体は、食事からのエネルギー源が不足すると、体内に蓄積されている糖質や体脂肪からのエネルギー産生に加えて 、筋肉などの体蛋白質を分解したアミノ酸からエネルギーを産生する(蛋白質の異化作用)。窒素バランスで負の時は体たんぱく質の崩壊を意味する。2017年アメリカ麻酔学会で腹腔鏡下手術中に栄養非投与群は血糖低下する傾向であったが、栄養投与群で血糖は低下しないこと。術中体温と入院期間は両群間で差がなかったことから、栄養投与群でさらにアミノ酸投与量を増やすことによって、体たんぱく質の崩壊を防ぎ、入院期間を改善する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2018年日本麻酔科医学会(5月)で、腹腔鏡手術中栄養投与が手術後の安静時エネルギー消費量(REE)に影響するかを研究し、栄養投与群で術後REE上昇、酸素消費量上昇がみられたが、栄養非投与群で術後REE上昇のみみられた。術中栄養投与群と栄養非投与群では術後窒素バランス、血糖値に有意差が認められたことを発表する予定である。2018年アメリカ麻酔学会では、手術侵襲により上昇する血中ケトン体が、栄養投与群が栄養非投与群より低下したことにより、手術中の異化作用を抑制すること、また、栄養非投与群では血糖低下がみられたが、栄養投与群では血糖低下がみられなかったこを発表する予定である。糖質からのエネルギー供給が不足してくると、 肝臓で脂質が分解されてケトン体が産生され、糖質の代替エネルギーとして体内で利用される。栄養投与群でのブドウ糖投与が有効であることを意味する。蛋白異化の指標である尿中3-メチルヒスチジンと入院期間は有意差がみられなかったことを発表する予定である。以上により、蛋白異化の指標である尿中3-メチルヒスチジンに両群間で差が見られなかったことより、アミノ酸投与量を増やすことによって、体たんぱく質の崩壊を防ぎ、入院期間を改善する可能性が示唆された。これからはアミノ酸投与量を増やし、研究を進めていく予定である。これらの結果を医学雑誌に発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
アミノ酸投与量を増やして観察し、検体を測定する費用として次年度使用額を生じた。本年度中に結果をまとめ、学会で発表し(日本、アメリカ旅費)、医学雑誌(英文校正費)に投稿する予定である。科研費はこれらに使用され、ほぼ全額使用する予定である。
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