研究課題/領域番号 |
16K10479
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
和田 龍一 日本医科大学, 医学部, 准教授 (20260408)
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研究分担者 |
坂谷 貴司 日本医科大学, 医学部, 教授 (50431903)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 乳癌 / HER2 / スプライスバリアント / delta-HER2 / 幹細胞 / 細胞増殖 / 転移 |
研究実績の概要 |
HER2過剰発現乳癌は乳癌のサブタイプの一つである。delta-HER2は、HER2のスプライスバリアントで、HER2過剰発現乳癌における発現の増加は転移と相関している。このことから、delta-HER2の発現が癌細胞の幹細胞化や浸潤能を増強し、転移を促進している可能性がある。本研究では、HER2過剰発現乳癌におけるdelta-HER2を発現から転移へ至る分子病態を明らかにし、転移を抑制する実験的標的治療を行うことを目標としている。本年度の研究では、1) HER2過剰発現ヒト乳癌組織におけるdelta-HER2発現と形質の解析、2) HER2過剰発現乳癌培養細胞株SkBR3における、delta-HER2発現癌細胞の形質の解析を中心に行った。HER2過剰発現ヒト乳癌において、抗HER2抗体と抗delta-HER2抗体で免疫染色を行ったところ、腫瘍細胞の約2-3%ほどでdelta-HER2発現していることが明らかにされた。さらに、増殖期にある細胞に発現するKi-67と、delta-HER2の二重染色を行ったところ、delta-HER2を発現しない細胞は非常に高い増殖能を示すのに対し、delta-HER2を発現する細胞はKi-67が陰性で、増殖能の低い細胞であることが明らかにされた。また、HER2を過剰発現する乳癌培養細胞株SkBR3においても免疫染色による検討を行ったところ、SkBR3の約2-3%でdelta-HER2の発現が見られた。Ki-67とdelta-HER2の二重染色では、delta-HER2を発現しないSkBR3は増殖能が高いものの、delta-HER2を発現するSkBR3は増殖能が低いことが明らかにされた。HER2過剰発現のヒト乳癌の組織と培養細胞株において、delta-HER2を発現する乳癌細胞は、癌細胞の中で特異な形質を示す細胞であることが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
HER2過剰発現ヒト乳癌と、培養細胞株SkBR3を用いた免疫染色による検討では、腫瘍細胞における野生型HER2とdelta-HER2発現、そして、delta-HER2の発現とKi-67による増殖能との関連についての解析を行うことが出来た。幹細胞マーカーとしてaldehyde dehydrogenaseの発現の検討を、ヒトHER2過剰発現乳癌の組織で行うことができたが、SkBR3培養細胞株では行うことができなかった。また、他の幹細胞マーカーの発現についての検討をヒト乳癌組織でも培養細胞株においても行うことができなかった。一方、テトラサイクリン存在下でdelta-HER2を発現させる乳癌培養細胞株の樹立を目指しているが、delta-HER2を発現させるベクターの構築が遅れた。ベクターの構築を早めるため、恒温振盪機を導入し、delta-HER2発現ベクターの作製は終了した。現在、細胞株への導入とクローニングを行っている。早急にdelta-HER2発現細胞株の樹立を目指し、以後の計画に遅れをきたさないようにする。delta-HER2発現乳癌培養細胞株は平成29年度の比較的早期に樹立が可能と見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針として、delta-HER2発現細胞株の早期の樹立を第一目標とする。樹立した細胞株を用い、delta-HER2が乳癌細胞株の幹細胞化と腫瘍形成能の増強をきたすことを確認し、そして、delta-HER2が幹細胞化をきたす分子機構の解明を試みる。 [delta-HER2発現による幹細胞化] 樹立したdelta-HER2過剰発現細胞株を用いて、テトラサイクリン存在下でdelta-HER2を発現させる。培養細胞株のCD44やCD24、またaldehyde dehydrogenaseの発現をWestern blotで確認する。また、増殖能の変化をKi-67の免疫染色から判定する。 [delta-HER2発現による腫瘍形成能] delta-HER2発現による幹細胞化により、培養細胞の腫瘍形成能が高まると考えられる。テトラサイクリンでdelta-HER2の発現を誘導し、培養細胞株で腫瘍形成能の増強を確認する。 [幹細胞化の分子機構の解明] delta-HER2の発現を誘導した乳癌培養細胞株における幹細胞化を確認した後、その分子機序を明らかにする。delta-HER2発現乳癌と非発現乳癌からRNAを抽出し、マイクロアレイを用いてmRNAの発現状態を比較し、幹細胞化にかかわる分子のプロファイリングを行う。バイオインフォマティクスの解析手法を用いて、重要なkey regulatorとなる分子の候補を選択し、Western blot法および定量的PCR法を用いて分子の発現の変化を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、HER2過剰発現乳癌と培養細胞株における幹細胞マーカーの発現の検討が十分ではなく、予定していた抗体の一部を購入しなかったため、その分の予算が執行されなかった。総額でみた予算の執行率は90%であり、おおむね研究の進捗状況と予算執行はバランスがとれていたと考える。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、delta-HER2発現乳癌培養細胞株の樹立が早期に可能と見込まれる。このため、本年度の研究として、培養細胞株を中心として幹細胞マーカーの発現の検討を行うことが可能と考えられる。次年度には、樹立した培養細胞を用いた幹細胞マーカーの解析を計画しており、幹細胞マーカーに対する抗体の購入の費用とする。
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