研究実績の概要 |
化学療法・放射線療法は、腫瘍細胞に、細胞死や細胞老化(治療誘導性細胞老化;以下、TIS)を誘導する。どちらも腫瘍の縮小や無憎悪につながるので、レスポンスとして同列に捉えられることも多いが、老化腫瘍細胞は生き残り、再発や耐性がんの出現につながる。この老化細胞を除去する治療の開発を狙いとして、下記に取り組んだ。 前年度に引き続き、老化細胞にてNAD合成代謝が亢進していることに着目した検討を行った。NAD合成経路としては、サルベージ経路とde novo経路の大きく二つの経路が存在する。これら二つの経路のうち、原則的にはサルベージ回路が主たるNAD合成系として機能することを見出している。NADサルベージで基質となるPRPPが、グルコースに由来していることが、安定同位体グルコースを用いたトレーサー実験にて確認できた。老化細胞のNADサルベージ亢進には解糖系酵素PKM1の関与が示唆されていることから、遺伝子改変によって老化誘導前からPKM1を発現するよう施した細胞の遺伝子発現解析を行った。その結果、PKM1の発現のみで、SASP(senescence-associated secretory phenotype)様の現象が惹起されることが示唆された。一連の結果から、治療ストレスを受けた乳がん細胞では、PKM1発現が誘導されてグルコース代謝・NADサルベージが亢進し、炎症性サイトカインなどのの発現を介して治療抵抗性や再発を促進しているモデルが浮上してきた。一方、乳がんの一部では、de novo経路も考慮する必要があることが示唆された。TCGAデータセットでの検討から、乳がん症例の約10%において、de novo NAD合成経路遺伝子(NAPRT, NADSYN1, QPRT)の増幅がみとめられた。
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