研究課題
本研究の目的は、「食道癌のリンパ行性進展におけるスフィンゴシンキナーゼ1型(SphK1)とスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の分子制御機構を解明し、その臨床的意義を明らかにして、新たな治療法開発への科学的基盤を確立すること」である。本年度は、食道癌切除検体におけるリン酸化SphK1 の臨床的意義を明らかにすることを目的に実験を行った。食道癌切除検体の原発巣におけるSphK1のリン酸化状態を免疫組織化学で評価し、臨床病理学的因子や患者予後との関連について検討した。実験の条件としては、10 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)にて抗原の賦活化を行い、pSphK1抗体(1:100, ECM Biosciences LLC, Versailles, KY, USA)は4℃にて一晩反応させた。この条件では内部陽性コントロールである血管内皮細胞の染色が薄かったため、抗原賦活化をTris-EDTA緩衝液(ph9.0)に変更したところ、良好な染色を得ることができた。食道扁平上皮癌に対して術前化学療法を行わずに根治的食道切除を施行した21症例の腫瘍組織を対象に、上記の条件による免疫組織化学染色を行った。血管内皮細胞以上の染色を認めた場合を陽性、それ以外を陰性と判定した。21例中7例(33%)がpSphK1陽性であった。pSphK1陽性例の5例(71.4%)にリンパ管侵襲を認め、陰性例と比較して有意に多かった(p = 0.02)。静脈侵襲やリンパ節転移との有意な関連は認められなかった。また、術後再発との有意な関連も認められなかった。この結果から、SphK1のリン酸化は食道癌のリンパ行性進展に関与していることが示唆された。
3: やや遅れている
免疫組織化学染色の条件設定に時間がかかり、目標の症例数の染色が終了しなかった。食道癌細胞株を用いたin vitro実験系に着手しておらず、やや遅れている。
食道癌臨床検体におけるpSphK1免疫組織化学染色の条件や評価方法が確立されたため、今後は症例数を100例に増やして実験を継続する。また、D2-40 抗体によりリンパ管を染色し、リンパ管浸潤を正確に評価すると共に、腫瘍周囲のリンパ管新生の評価を行う。以上により、臨床検体におけるpSphK1発現の臨床的意義を解明することを優先して行う。並行して食道癌細胞株にS1Pを処理し、遊走能や浸潤能の変化を評価し、臨床検体におけるpSphK1とリンパ行性進展の関係を支持する基礎データを取得する。これらの研究結果については、国際学会での発表や英文雑誌への投稿を予定している。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件)
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