研究課題
食道癌においてリンパ節転移は最も重要な予後規定因子とされている。また、食道癌の進展形式においてリンパ行性進展は最も重要な進展形式である。スフィンゴシン-1-リン酸(Sphingosine-1-phosphate、以下S1P)は細胞情報伝達物質として働く脂質メディエーターであり、S1P産生責任酵素であるスフィンゴシンキナーゼ1型(SphK1)がリン酸化により活性化されることで産生される。このS1Pシグナルは癌のリンパ行性進展に関わることが報告されているが、食道癌における役割は未解明である。本研究の目的は「食道癌のリンパ行性進展におけるSphK1とS1Pの分子制御機構を解明し、その臨床的意義を明らかにして、新たな治療法開発への科学的基盤を確立すること」である。本研究では、術前補助化学療法を施行せずに外科切除が施行された食道癌92症例の手術検体を対象に、活性型のリン酸化SphK1(pSphK1)とSphK1の腫瘍組織における発現を免疫組織化学で評価した。59例(64%)にpSphK1高発現を認め、高発現群では病理学的なリンパ節転移陽性、リンパ管侵襲陽性、壁内転移陽性の頻度が有意に高かった。さらに、pSphK1高発現群の術後5年全生存割合は50.8%であり、低発現群の67.3%と比較して有意に低かった(P = 0.01)。一方、SphK1発現とリンパ行性進展や術後生存期間との有意な関連は認められなかった。活性型のSphK1であるpSphK1発現は食道癌のリンパ行性進展や患者の不良な予後と関連していることが明らかになった。他の固形癌を対象とした研究結果と同様に、食道癌のリンパ行性進展においてもS1Pシグナルが関与している可能性が示唆された。
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Journal of Surgical Research
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